カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

店の名は琥珀亭・海底のおうち

2017-03-21 23:17:39 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【水底】というテーマで創作してください。

 まだ店長の娘が小さかった頃、船着き場の縁に足を出してぶらぶらさせていた時に靴を片方落としてしまった。
 お気に入りの靴を無くして泣いて帰った娘に、店長は「きっと落ちたお前の靴には海の底の生き物が新しい家を見付けたと住み着いているぞ」と言い、その日の娘の夢は、自分が落とした靴の家で暮らす生き物の家に遊びに行くものとなった。
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店の名は琥珀亭・敢えて理由を述べるなら

2017-03-20 23:54:18 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【午前零時に浪漫を語る】というテーマで創作してください。

 なあ、ここの連中どうしてオレのような胡散臭い人間について何一つ詮索しないんだと楽師が訊ねると、それぞれの事情があるのさと店長が答える。
「純粋に他人に興味の無い奴、臑に傷を持つ奴、他人の秘密がどれだけ危険なものかを判っている奴、己の利を計算して口をつぐむ奴、そんな個々の様々な思惑が沈黙を選択させて、偶然とは言え、それが結果的にお前だけでなく街の利益も守ることに繋がっているわけだ」

 それにまあ一番の理由として、お前の場合は監督に目を付けられた楽師だから居なくなられると困るというのもあるだろうなと店長は笑う。
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店の名は琥珀亭・終わることのない旅と悪夢

2017-03-17 21:29:23 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【白線死亡ゲーム】というテーマで創作してください。

 終わることなど想像すらしなかった平穏で平凡な日常は、その日、あっさりと終わりを告げた。彼が己には何の咎も無いまま人間の一線を越えたとき、都は廃墟と化したのだった。
 それからずっと、彼は旅人として一所に留まることなく異国を巡る生活を続けてきて、恐らくは旅の中で朽ち果てるのだと思っている。
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店の名は琥珀亭・琥珀色の翼

2017-03-16 22:13:44 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【根元から折った鍵】というテーマで創作してください。

 僕は昔から融通が効かない性格でしてねと神官は続ける。
 物心ついた頃にはもう、商人の父が公正とは言えない取引をしているのに反発していたのですが、僕以外の家族は「そうやって父が稼いでくれているから家族が暮らしていけるのだ」と父の味方をするばかりだった。そんな世界に耐え兼ねてこの世から消えてしまおうと崖から飛び降りたとき腕を掴まれて、顔を上げると琥珀色の翼を持った天使がいました。少なくとも意識を失う前の僕はそう信じました。

 だから、僕は自分が信じるものの為に家を出て神官になったのです。
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店の名は琥珀亭・貧乏神官の天使

2017-03-15 19:23:24 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【嘘つきの純情】というテーマで創作してください。

「これで足りますか」
 固く握り締めていた右掌を開いて幾枚かの貨幣を示してくる神官に、店長は重々しく頷いて空席を示した。店の料理を賞味したくても自由になる金など殆どない為、滅多に店に来られない貧乏神官は子供のような笑顔で着席する。食いたいものも食えないとは神官職も大変だなという店長の言葉に、実は僕、子供の頃に本物の天使を見たことがあるんですよと答える神官。
「誰も信じてくれませんけどね」
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店の名は琥珀亭・望月には程遠く

2017-03-14 20:16:40 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【想いは飽和せず】というテーマで創作してください。

 監督の言葉。

 この街に来て初めて祭を企画して以来、満足のいく出来だった事は一度も無いよ。いつだって「ああすれば良かった、こうすればもっと上手くいった」なんて後悔の繰り返しさ。でもね、月並みだけど、だからこそ僕は祭を毎年企画するんだ。今年こそやり遂げてみせるという意気込みと、今年も理想には程遠かったという失意を繰り返し味わいながらね。
 
 まあ、巻き込まれる皆の方はたまったものじゃないかも知れないけど。
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店の名は琥珀亭・父ちゃんの神話

2017-03-13 20:30:43 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【呼ぶ声は遠く】というテーマで創作してください。

 少女は、いままで一度も見たことの無い彼女の父親が自分を迎えに来てくれるのを待っていた。

 母親に捨てられ、薄汚い身なりのまま道端に座り込んでいる少女に構う者は殆ど居なかったが、一人だけ声を掛けてくれた上にチーズの挟まったパンをくれた男の人が居たので、取りあえずこの人が「父ちゃん」なんだと勝手に決めた。

 その後、すったもんだの末に何とか一緒に旅をするようになり、二度ほど置いて行かれそうになったが現在はとある港町に落ち着き、二人で琥珀亭という食堂を営んでいる。
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店の名は琥珀亭・役割分担の重要性

2017-03-10 21:08:45 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【台所戦線おそらく異状なし】というテーマで創作してください。

 ここで暮らしたいなら食い扶持分は働け。そう言って店長の娘にエプロンを渡された楽師は客の注文を取り違え、包丁で己の指を刻み、洗うはずの皿を粉砕した。娘に「コイツ使えねえ」と断言された楽師は仕方なく店長が店の食材の仕入れに連れて行き、荷物持ちとしてはアレだが品物の目利きは大した物だとお墨付きを貰った。
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店の名は琥珀亭・天使のいる光景

2017-03-09 23:17:22 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【空を指差しきみは笑った】というテーマで創作してください。

 頑なに本名を名乗らないので最近は楽士と呼ばれるようになった元怪我人が調律の為に三線を爪弾きながら、店長は空を見ないんだなと呟くと、当の店長は笑って、空には天使がいるだろうと答えた。国教教会のいわゆる御神体は天使で、その天使を見たくないという意味にも取れる店長の言葉は教会関係者だけでなく迂闊な相手に聞かせて良いものではないが、楽士は黙したまま弦を爪弾くばかりだ。

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店の名は琥珀亭・花蜜を吸う

2017-03-08 23:37:27 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【山茶花の蕾】というテーマで創作してください。

 怪我人は始めは酷く周囲を警戒していたが、店長父娘を始めとする港町住人の感動的なまでに何も詮索しない態度に毒気を抜かれ、動けるようになると一人で街を彷徨き始めた。ある日監督の犬に懐かれた怪我人は「甘い物でもどうだい」と椿の花を差し出され、うっかり蜜を吸ってみせると訳が判らぬまま監督宅まで連行され、知っている楽器はあるかいという問いかけに三弦が貼られた東国の楽器を選んで爪弾き、やっぱり知っていたかいと喜ばれた。
 監督宅にある椿の木は、港町に流れ着いた時に監督が所持していた椿の実が発芽したものだった。


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