新鹿山荘控帳

山荘管理人が季節の移ろいを、書きとめました
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石井光太「遺体」 涙とともに

2016-03-16 18:00:53 | 読書
近年読書傾向だけでなく映画についても、実話、実録、ルポものに傾向が変わりつつあることはいくつか過去にお話ししております。
三月になりまして、「震災はどのように書かれてきたか」と言った特集でまとめている色々な著作が紹介されています。
福島第一関連は、折に触れ購入して読んできましたしNHKの特集などは関心がある放送は録画をしてきました。

しかしながら津波に被災された方々に関しては、津波直後の画像があまりにも生々しく強烈で関連図書の購入を控えておりました。
この度の「津波関連図書」のまとめ記事を読みいくつか購入をしてみようと思い始めました。当時は発行の時期も異なり気が付かなかった本もあり、まとめて紹介していただくと、簡単な内容解説もあり参考になりました。さらに5年も経過しますと、初期の本は文庫本化されていて助かります。

最初に購入したのは、石井光太「遺体」新潮文庫 です。

週刊文春の紹介文によりますと、「釜石の安置所に運び込まれた遺体を前に、確認する人、それを迎え入れる市の職員、身元を確認する医師や歯科医、自衛官に丁寧に取材した渾身のルポである。」とあります。

文庫本のルポの記録ですから簡単に読めると思いましたがとてもとても、内容は予想通り悲しく重く読了までに3日掛もかりました。
もし読んでみたいと思った方に申しあげますと、人前ではとても読めない本です。「ほろり」くらいは人目をごまかせても、私の場合声を上げ体を震わせて泣いてしまった個所がいくつかありました。

もちろんあまりにも悲惨すぎる情景もありますが、遺体安置所にかかわった人たちの心持や遺体に向かい合う心根に感動してしまったのです。
警官や自衛官は任務から現地に向かったのですが(立場が違う自衛官や警官のお話は、また別の本で勉強するつもりです)、ここで登場する人たちはたくさんの遺体に向き合ったことのない普通の市役所職員や消防団の人たちです。

中でも一番感動したのは、民生委員の老人で昔葬儀社に努めていた関係で遺体の向き合うことの経験があるため、遺体安置所の心持のまとめ役を名乗り出た方のエピソードです。
安置所にかかわった皆さんはもちろんこんなか経験は初めてです。自分の担当する仕事を極限状態でこなすだけが精いっぱいです。
一方肉親の遺体を探しに遺族が次から次へと安置所に駆けつけてきます。肉親愛はもちろん最後まで手を差し伸べられなかった後悔と無念さが、遺体と対面した時爆発します。その時2者の間に入って「遺体に話しかける老人の言葉」がどれほど遺族を救うことか。この辺は大粒の涙無くては読み続けられません。

日本の場合、遺体の画像はふつう公表されません。震災当時週刊誌のグラビアで見た記憶がありますが。
本書では、文章で表現され生々しさはないですが、言葉で書かれたため読者には強烈なイメージを想像させる強烈な事例が紹介されています。
とてもここではそれを紹介できません。

本書は釜石の場合です。東北3県だけでなく茨城県の方まで同じような悲惨なつらい事例がたくさんあったはずです。
被災地の皆さんがこのようなつらい記憶を心の奥に抱えていると思うと、なんと申し上げていいのか思い当たりません。

あ、かき忘れました。安置所の閉鎖の時の若い住職の読経のシーンも涙が出てきました。他にもいくつかそのような事例があります。

自分がこのような状況に立たされたら、どんな行動がとれるか。悩みます。けれども本書を読んで、一般市民であってもこのような行動をとれた人がおられたことを知って、自分もその状況で人のために活動できる側に立つことを選べればと思うのであります。
久しぶりにいい本を読みました。



コメント
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