この本は、沢木耕太郎さんが藤圭子さんにインタヴューした会話だけで構成されたものです。たまたま図書館で見つけたのですが、びっくりするほど面白かったです。そもそもこういう本が出ていたのを知らなかったので。
全編に渡って、酒を酌み交わしている二人の会話だけなのですが、それが1979年で藤圭子さんが一旦引退した頃のこと。こういう取材のような懇談のようなものがあったという事自体知らなかったので、最初は空想か「もし、あの頃の藤圭子と対談したならば」という創作なのかと思ってました。
が、巻末の後期をよんで、これがリアルなインタヴューであること、1979年のインタヴューがなぜ2013年に発刊されたのか、その辺すべてを理解しました。詳しい事情はお読みいただくのがよろしいかと思いますが、2013年というのは藤圭子さんが亡くなった年で、その後発行されたこの本が話題になった記憶はありません。私が不勉強なだけなのかもしれませんが。
私の年代では、この人はテレビでたまに見たという程度だったのですが、実際に藤圭子という歌手がどういう生い立ちだったのか、両親がどういう人だったのか、どういう経緯でデビューするに至ったか、スターになってどんな気持ちで歌っていたのか、最初の結婚とその破たん、その最初の夫とのその後の関係、なぜ引退を決意したか、など知らなかったことだらけで、それがまた凄く興味深い内容でした。
これは今は文庫でも出てるので、手元に置いておきたい本です。これを読んでいるうちに姿が浮かび上がってきた藤圭子さんは、凄くチャーミングで聡明な女性でした。暗い歌を無表情で歌う歌手という認識しかなかった自分が恥ずかしい…。