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近所を歩く、遠くの町を歩く、見たこと食べたこと、感じたことを思いつくままに・・・。おじさんのひとりごと

三隅研次監督の『剣』で市川雷蔵と三島由起夫で現在の改憲・護憲論争に思いを巡らします

2016年03月09日 | 映画の話し
『剣』を観ました。

市川雷蔵で、「剣」ですから、当然、時代劇だと思っていたら、それが、何と、現代劇でした。

見終わって感じたのは、自分の理解を超えた、自分とは異なる次元の、異なる思想の、有る意味で「怖い」作品でした。

兎に角、です。原作が、あの三島由紀夫ですから、純粋で、正しく、美しく、下界の生身の庶民とは異なる、高貴なる理想を追い求め、独り気高く悩み、独り気高く死んでいく、そんなお話です。

冒頭、太陽を見つめる少年の鋭い眼のアップ、それに被せて主人公の独白のナレーション、

『この時、俺は太陽の本質を見た、それは眩しくて、とても正視できない絶対の正義、その輝きを全身に浴びて、俺は強く成りたいと思った。強く正しく成りたいと願った、そして、剣を学んで俺はこのなかに、最も新鮮な、純粋な生命の耀きを掴みうると信じた』

何てことを語るのでした。とても、少年の頃に“太陽の本質”を見てしまうのです。ふつうの人では、太陽を見つめて、太陽の本質なんて、そんなことは考えない、思いもしない、そんな青年のお話です。

そして成長した主人公は、大学剣道部の主将として、酒とか、女とか、タバコとか、バクチとか、そういう下界の、下世話の、汚れと自己を隔絶したと云うか、遠ざけてと云うか、理想の剣の道を追い求め、理想の指導者像を追い求め、鍛錬の日々なのです。

そして、夏合宿で部員全員が規則を破り、その違反行為に対して、主将として一言も語らず、合宿の打ち上げの翌朝、剣道着で竹刀を携えた姿で、死んでいるのが発見されるのです。

何故? 自ら命を絶ったのか?

部員の違反行為は、単なるキッカケだと思います。成長するに連れて、世の中の汚れと隔絶することのムズカシさに、気が付きはじめるのです。

生身の人間として生きていく事は、それなりに下世話の、世の中の、汚れから、己を遠ざけて生きていくのはムズカシイのです。いつか、何処かで、それなりの、妥協を強いられるのです。

でも、少年の頃に太陽の本質を見た彼は、いま、ここで、自己の生命を断つことで、美しい正義を体現しつつ、汚れることなく、生を全うし、生を閉じたのでしょう。

でも、ねぇ、そんなことは、荒唐無稽で、高等遊民の、自己陶酔だと思います。まあ、周りに迷惑を掛けぬ程度に、どうぞ御勝手になのです。

それにしても、主人公の自死で想起するのは、何たって、市ヶ谷駐屯地での“あの事件”ですよ。

1970年の11月25日に、憲法改正のため自衛隊の決起呼びかけ、割腹自殺をした事件です。三島由紀夫45歳、私は20歳の時でした。

原作「剣」が発表されたのが1963年の10月で、5か月後の3月には映画化され公開、何とも素早いのです。三隅研次監督は63年当時、この小説の映画化に何を託したのか?

“60年の安保闘争後”の「剣」で、“70年安保闘争後”の市ヶ谷割腹自決事件で、どちらも、対米従属からの、日本国の自立が、憲法が、問われているのです。

そして、2016年のいま、自民党安倍晋三内閣で、憲法改正が、9条の改正が、具体的な政治課題となっているのです。

でも、しかし、三島が居た時代とは異なり、まったくの様変わり、改憲派にしても、護憲派にしても、言葉が軽いのです。

理想とか、思想とか、信条とか、そんな事とは無関係に、命を掛けるほどの事もなく、単なる政局として語られているのです。緊張感が、緊迫感が、現実感が無いのです。

やはり、理想があって、思想があって、体系的、大局的な政策があって、それを掲げた政党があって、論争があって、そして、選挙があって、国民の審判があって、その結果があって、国は、世の中は、まわっていくのです。

三島由紀夫が望んだ、米国から、占領軍から、敗戦国として、押し付けられた、戦後憲法の改正が具体的な政治課題となったいまの姿、彼の眼にはどのように映っているのか?

話しを戻します。

兎に角、あの頃、私が20歳のころ、こんな、思想的、政治的、映画があったのです。“市ヶ谷事件”を予告するような作品でした。

もしかして、もう、そろそろ、世の中に、具体的に、差し迫って、未来を掛けての、命を掛けての、緊迫感のある、そんな時代が始まるころかも?

でも、みんな、怖いから、気付き始めても、知らない素振り?

う~ん。本日、窓の外は暗く、雨雲が覆い被さり、昨日の陽気とは打って変わって、真冬の寒さに戻り、話しも、暗くなってしまいました。

そして今朝、眼の醒める直前に見た夢が、とても暗い夢だったのです。夢はその日の気分にかなり影響します。

兎に角です。「剣」は、とても、暗い作品で、意味深で、暗示的で、でも、それなりに、楽しめる作品でした。

とにかく。これでお終い。


それでは、また。


コメント (2)
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