前回の続きです。
いよいよ、亡命決行の朝を迎えます。
『お気をつけて』と駒子。
『ありがとう。駒子』
聡子も、駒子も、明らかに、別れの表情。
神戸港に着き、優作が先に降り、別々の船に乗船。
優作から聞いていたとおり、船の前には大柄のボブが出迎えていた。
ボブに案内され船底の貨物箱の中に隠れる聡子。食事は一日2回、トイレはこのバケツ、と云って渡されます。
このやり取りでは、サンフランシスコまでの二週間、ずっと箱の中での生活のように受け取れます。
せいぜい一日で、船は日本の領海外に出ます。アメリカの船ですから、そこはもうアメリカです、自由です。箱の生活からは一日で解放されるのです。
暫くして外が騒がしくなり、箱の外を覗くと、周りには憲兵の集団が。
こう言うシーンは見ていても、ハラハラ、ドキドキです。
憲兵隊と、船長とボブのやり取り。
『密航者はどこだ』
『何のことか?私は知らない』とボブ。
『ボブ、もう教えた方が良い』と船長
『上官、駄目です。話が違います』
『いいから教えるんだ。従わないと我々も逮捕されてしまう』
仕方なく聡子が隠れている箱を指さすボブ。
聡子も驚きましたが、観ている私も驚きました。
優作が懇意にしている船長、知ってか知らずか、かなりいい加減な男だったのです。
憲兵隊に連行された聡子。
泰治から告げられます。
『福原聡子。機密漏洩、国家反逆、外患陰謀、あなたにかけられた嫌疑は立証されれば、どれも死刑です。ただ我々も、あなた一人でこれを行おうとしたとは思っていない。福原優作はどこです?あれこそ本物の売国奴だ。あの男の居場所を白状すれば、あなたの刑はずっと軽くなるでしょう』
『知りません』
『一つ伺ってもいいですか?どうしてあの貨物船のことが分かったんですか?』
『通報があった。匿名で手紙が届いたんです。神戸からサンフランシスコに向かう船の中に密航者が乗っていると、最初、我々はそれこそ福原優作だと予想しました。まさか、あなただとは』
ここで聡子は、少しだけ、もしかして通告者は優作?と疑ったかも知れません。私はここで、通告者は優作と確信しました。
『私にも大望があります。もう子供ではありません』
『関東軍を告発することですか?』
『ええ』
『国家反逆者がねつ造した文章を、どうしてあなたが信じるんです』
『あのフィルムを見れば分かります』
『なるほど。あなたの大望がどんなものなのか、これを見て判断しましょう』
『泰治さん。あなたは、もともと気立ての優しい方だった。一緒に山登りもしし、この間は一緒にウィスキー飲みましたよね・・・。あなたの本質にあるのは優しさです!私はそれを知っています。そのあなたが、こんなに素晴らしい力を手にされた。時代があなたを変えたとおっしゃるなら、あなたの方が、その時代を変えることだって、できたんじゃないんですか?』
泰治は、その問い掛けに対する答えとして、振り向きざまに張り倒します。
優作が逮捕されたとき、泰治は、優作を厳しく取り調べませんでした。聡子を思ってこその寛大な処置。しかし、裏切られたのです。
それにしても、聡子の言葉ですが、「こんなに素晴らしい力」ですか、当然、泰治に力があるのではなく、憲兵隊大尉という地位に力があるのです。
「時代があなたを変えたなら、時代を変えることだって」ここでは、”逆もまた真なり”は、この場合、とても、とても、通用しません。泰治も何だその論理は?と思ったことでしょう。
そもそも、気立てがよく、優しい泰治を変えたのは、一義的には聡子です。優作と聡子が結ばれた結果、軍人になる事を選択したのです。
聡子も泰治の気持ちを、薄々は気が付いているのです。泰治も、聡子が自分の気持ちに気付いてる、と感じていたのです。
でも、幼なじみが、恋をして結ばれるのは、それなりに難しいと、思うのです。
倒れ込んだ聡子に、これまでの想いから、自身への決別として、自らを納得させるように、『お前も売国奴だ、万死に値する』と告げます。
フィルムの上映準備ができ、部下から『お待たせしました』との声。
『よし、見よう』と優作。
どんな映像が映し出されるのか?
本日は、ここまでとします。
それでは、また次回。
よろしく。