学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

板倉聖哲「日本が見た東アジア美術─書画コレクション史の視点から」

2020-07-26 | 『太平記』と『難太平記』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2020年 7月26日(日)12時46分19秒

『日本美術全集第6巻 東アジアのなかの日本美術』(小学館、2015)には全体の半分以上を占める図版の後にいくつか論文が載っていて、その筆頭が板倉聖哲氏の「日本が見た東アジア美術─書画コレクション史の視点から」です。
この論文は冒頭に、

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 日本美術にとって、つねに中国美術が大きな刺激になってきたことは言うまでもない。両者の関係を通覧すれば、日本美術が単に同時代の中国の流行を追うのではなく、しばしば過去の美のなかから選択して需要してきたことがわかる。それは受け手側が主体的に選択した美であり、古代から近代に至るまで一定の趣向の反映があったことを意味している。
 ここではそうした位相のズレに注目して、書画コレクションの観点から、日本の為政者が収集した「唐物(中国からの舶来品)」の展開をみていきたい。
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という趣旨説明があって(p170)、この後、

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正倉院と唐皇帝コレクション
後白河法皇と徽宗皇帝
唐物崇拝と東山御物
中国と日本における絵画趣味の相違
収蔵する「場」の変容─近代の美術館・博物館へ
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という小見出しの順に議論が展開されて行きます。
その全体を批評する能力は私にはありませんが、日本史と東洋美術史の「位相のズレに注目して」みると、例えば、後白河院についての、

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 蓮華王院宝蔵をつくった後白河上皇に対する評価はいまだ揺れ動いている。武士の台頭に翻弄される古代最後の王、武士たちをきりきり舞いさせた権謀術数の政治家、流行を追い藝術に現〔うつつ〕を抜かした「暗主」、さらに、近年では棚橋光男氏の研究によって「文化の政治性」による中世王権確立の立役者といったイメージが提示された。
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といった記述(p172)は、四半世紀前だったら新鮮な印象を与えてくれたかもしれません。
棚橋光男氏(1947-1994)の遺著である『後白河法皇』(講談社選書メチエ、1995)は、今読むと単に騒々しいだけで、後続の研究者には殆ど影響を与えていない感じですね。
また、

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 足利将軍は、和の文脈としては、空前の絵巻コレクションを形成した後白河院に倣って、王権の正統性を示すために絵巻を制作・収集した。義満自身、みずからを主人公とする「鹿苑院殿東大寺受戒絵巻」を制作したり、みずからを『源氏物語』の光源氏に重ねて「絵合〔えあわせ〕」を企画したりと、権力の誇示がその目的のひとつであったことは言うまでもない。
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という記述(p176)は、恐らく高岸輝氏の『室町絵巻の魔力 再生と創造の中世』(吉川弘文館、2008)に依拠したものと思いますが、同書には論理的な飛躍が多すぎてあまり感心できず、板倉氏が高岸説をまるで定説のように扱っている点には抵抗を覚えました。

絵巻と政治権力
二重のストーリー
喧伝とは?
紫の上と北山院の共通点
「水際立ったやり方」
組曲「北山」

総じて、板倉氏の日本史の知識と分析力には若干の疑問を感じます。

>筆綾丸さん
>相変わらず、西欧の猿真似をしているだけだ、

そうですか。
実はいったん『イタリアン・セオリー』を図書館に返却した後、また気になって再度借り、チラチラ眺めていたところだったのですが。
信玄の「送り状」は『山梨県史』に出ているようなので、後で探してみます。

※筆綾丸さんの下記二つの投稿へのレスです。

千里眼の猿 2020/07/24(金) 13:05:30
小太郎さん
悔しいことに崩し字は読めませんが、秦氏の言われるように、送り状の日付(7月19日)と三条夫人の死(7月28日)との間には、何か深い理由があるような気がしますね。
浪漫主義的に言えば、猿の表情には誰かの死を悼んでいるような悲しげな気配があり、さらには、武田家の滅亡をも予見した諦念すら揺曳しているようにもみえますね。

猿真似 2020/07/25(土) 15:24:16
日本画で猿の絵と言えば、幕末の森狙仙が有名ですが、例の『猿図』の作者は、デューラーの同時代人かもしれず、彼の『野うさぎ』(1502)と比べても遜色ないような気がします。と言うか、あの時代、『野うさぎ』のような兎は日本画では描けず、『猿図』のような猿は西洋画では描けない、ということかもしれません。
『イタリアン・セオリー』を読み終わりましたが、よく理解できませんでした。捨て台詞のような言い方をすれば、西欧に哲学者はいるが、日本には存在しないので、明治以来、相変わらず、西欧の猿真似をしているだけだ、というようなことになります。
コメント
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