櫻井智志
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~「無知のベール」山口二郎氏(法政大学教授)~【東京新聞2月8日朝刊・転載】
人質事件に対する一連の対応から浮かび上がるものは、安倍政権が国民の生命よりも、この機会に国家としての体面を整えることに意欲を持っているということである。生命軽視は、後藤健二氏の遺族に対して、今もって安倍晋三首相からの弔意の表明がされていないことからも明らかである。
そして、国家の体面が大好きな政治家が、実際の戦いにおいては全く無能であることも、悲しいくらい明らかになった。首相は、中東歴訪の際に行った反テロ演説について、テロリストの心中を忖度すべきではないとして、正当化した。敵を知り己を知ることは、戦いの基本である。敵を知り、出方を探ることを、敵に同情することとして否定していては、賢い戦いはできない。
首相は国会審議の中で、日本人の安全を守るために憲法九条の改正が必要だと、自説を繰り返した。これまた、己についての決定的無知から発する主張である。自衛隊は紛争地域に乗り込んで力ずくで日本人を救出することなどできない。
国際舞台で自己陶酔的な演説をし、自衛隊を正規の軍隊として国際的な共同作戦に従事させる。これらはみな安倍首相の自己満足であり、日本人の安全とは何の関係もない。指導者が無知であることについてわれわれを無知にさせるために、特定秘密保護法がさっそく効果を表しそうである。
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私見
山本太郎参議院議員がイスラム国非難決議に動ぜず退席した。国会議員達は山本議員を非難した。驚いたことは、まともな日本共産党さえ全員一致で非難決議に合流した。「人質解放」のために一丸となって救出を成就するためには、政府批判を行えば、それを阻害するという配慮からであることを後藤健二さん虐殺という悲劇的な結末を迎えて、その地点から日本共産党は明らかにした。
しかし、実は人質拉致の時点から虐殺に至るまで、安倍政権は実にしたたかな策略をめぐらした。人質救出などまともには、そうダッカ事件で「人命は地球の重さよりも重い」と発言した福田赳夫当時の総理とは天地ほど異なる首相だったのだ。そうでなければ、虐殺直後から、
①「自衛隊は人質を救出するために海外におもむいて解放する戦闘行為を辞さない」特別法を制定する
②今回のような事態も考慮して来年夏の参院選後に、憲法改定の発議をおこなう
③テロに屈せず国際社会の一員として、有志国連合の一員として、イスラム国に断固と向かい合う
など、続々と場違いな具体的な政策方針が出てくるわけがない。
安倍政権は、すでに人質拉致のスタートから一貫して、いかに国民的規模で有事体制下での意識のコントロールをおこなってきた。日本共産党や社民党など護憲政党は、完全に読み間違えていた。中東に詳しい専門家の見識をマスコミを通じて知って驚いた。実態がどのようなものかが、全く伝えられていなかったし、イスラム国と最も敵対するヨルダンに対策本部を置いたが、そのこと事態もイスラム国が、日本は有志国連合の一員であり敵であるという認識にむかわせた。人質解放の実績もあり、様々な利点のあるトルコに対策本部を置けば、もっと情報収集にもより有効であったこと。日本は中東地域と歴史的に友好関係にあり、今後も英米の言いなりになるよりは、日本の独自な立場を堅持して、難解な紛争地域の軍事的介入を安易に進めるよりも、完全な医療・教育・建設・環境整備などのいわば人道支援に徹することを、世界にアピールしてなによりも実践することだ。
しかし、安倍政権はそんなことを皆目実施するつもりはないだろう。そのような一連の日本国民のマインドコントロールを読み込んだ情報操作と、イスラム国とのまともな交渉よりも、日本国民の心理的操縦を積極的に織り込んでいた。その全プロセスで、日本共産党のような国民的抵抗政党でら、「一丸となって・・・」という自戒に無意識のうちに押し込められていたことを、戦前戦時中の歴史的経験をふりかえっても、見通しを誤っていた。その点では、的確な安倍政権批判の見解をツイートで意思表示した若い代議士の直観的理解のほうがそれを批判した指導部よりも、私は的確であり本質を射ていたとみる。その後、日本共産党は国会予算委員会などで厳しく安倍政権の事態への対応を明確にあきらかにするよう本来の共産党らしい的確明瞭な総理への質問と批判、提言をこなした。
いまや問題は解決したかのような錯覚で、安倍総理は陽気に憲法改定、欧米に追随する従属的な軍事大国路線へと邁進している。国民への締め付けや監視、コントロール、冤罪や弾圧は驚くべきスピードで進行していく。国民の批判があると、一歩後退するが、隙を国民側が見せれば、一気に加速していく。
再度、冒頭の山口教授の言葉を繰り返してむすびとする。
「そして、国家の体面が大好きな政治家が、実際の戦いにおいては全く無能であることも、悲しいくらい明らかになった」・・・