平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

『切り裂きジャック・百年の孤独』と『6つのナポレオン』

2012年02月23日 | 小説
 19世紀ロンドンで起こった切り裂きジャック事件。
 6人の娼婦を惨殺した<切り裂きジャックの正体>については未だに謎で、さまざまな推理がなされている。
 『切り裂きジャック・百年の孤独』(島田荘司著・集英社文庫)も、ジャックの正体にスポットを当てた作品だ。
 島田さんの筆による<切り裂きジャック事件>の真相はおおまかに言うと以下のようになる。

 以下、ネタバレ。



『ジャックの正体はマリアという娼婦。
 動機は6人の娼婦のうちの誰かがのみ込んだダイヤモンドを回収するため。
 マリアはダイヤモンドを回収するため、6人の娼婦の腹を切り裂いたのだ。
 変質者の殺人に見えたこの事件の真相は猟奇殺人でも何でもなく、のみ込んだダイヤモンドを取り出すという実利的な単純なものだった。
 ただ遺体が無惨な姿だったので、まわりがセンセーショナルに扱い、<犯行声明文>を面白がって警察に送る愉快犯も登場して、事件はますます複雑になった』

 これが<切り裂きジャック事件>の真相。
 実にミステリー作家らしい切り口である。
 この作品を読んだ時、「なるほど、そういう手があったか」と思って感心した。

 さて、ここで本日の本題。
 最近、シャーロック・ホームズの『6つのナポレオン』という短編を読んだ。
 これは、<6つのナポレオンの石膏像が次々と壊されていく>という事件。
 ナポレオン像はなぜ壊されるのか?
 ここでホームズが明らかにしたのは、ナポレオン像の中に盗まれた<黒真珠>が隠されていたから。
 犯人は<黒真珠>を回収するため、石膏像を壊していった。

 もう、お気づきだとは思いますが、『切り裂きジャック・百年の孤独』と『6つのナポレオン』は事件の内容・犯人の動機という点で酷似している。
 『切り裂きジャック』の場合は娼婦で、『6つのナポレオン』の場合は石膏像。
 『   〃    』の場合はダイヤで、『   〃   』の場合は黒真珠であっただけの違い。

 推測だが、島田荘司さんは『切り裂きジャック・百年の孤独』の着想を『6つのナポレオン』から得たのではないか。
 もちろん『切り裂きジャック・百年の孤独』は優れた作品で、『6つナポレオン』のパクリなどと言うつもりはないが、ここに<作家の創作の秘密>を垣間見たような気がする。
 作家はこんなふうにして、既存のものを換骨奪胎して自分のものにし、まったく新しい作品を作っているのだ。

 こんなふうに作品成立の背景について、推理・分析してみるのも、作品の楽しみ方のひとつですね。



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