はるくれば やどにまづさく うめのはな きみがちとせの かざしとぞみる
春くれば 宿にまづ咲く 梅の花 君がちとせの かざしとぞ見る
紀貫之
春が来るとわが家の庭に真っ先に咲く梅の花は、あなた様の千歳の齢の挿頭(かざし)でありましょう。
髪に挿すかんざしは、もともとは植物の生命力が身体に移り宿ることを願うものだったとのこと。長寿の祝宴に呼ばれた貫之が、当人の背後に立てられた屏風にこの歌を書きつけて詠んだと、詞書にあります。美しい絵が描かれた屏風に自ら直接書きつけたというのですから、貫之は書にも優れ、美しい仮名文字を書く人物だったのでしょう。藤原定家が「其の手跡の躰を知らしめんがために、形の如く之を写し留むるなり」として正確に書き写したという土佐日記の最後の部分で、現代の私たちはその筆跡を知ることができます。
国宝(指定番号00013) 前田育徳会 藤原定家臨模 臨 紀貫之筆 土佐日記