いろもかも むかしのこさに にほへども うゑけむひとの かげぞこひしき
色も香も 昔の濃さに にほへども 植ゑけむ人の 影ぞ恋ひしき
紀貫之
梅の花は色も香りも昔と同じように深いけれども、これを植えた人は今は亡く、そも面影が恋しく思い出されることよ。
詞書には「あるじ身まかにける人の家の、梅の花を見てよめる」とあります。「にほふ」は現代では嗅覚のみに用いますが、古語では視覚・嗅覚両方に用いられます。視覚で用いる場合は「美しく映える」意ですね。前歌(0850)と同じく、花を見てそれを植えた故人を偲ぶ詠歌です。