わがせこが くべきよひなり ささがにの くものふるまひ かねてしるしも
わが背子が 来べき宵なり ささがにの 蜘蛛のふるまひ かねてしるしも
よみ人知らず
私のいとしい人が来るはずの今宵。蜘蛛のうごきが、まるでそのことを知っているかのようです。
巻第十四「恋歌四」からの墨滅歌。詞書には「思ふてふことのはのみや秋をへて下」とありますので、0688 の次におかれていた歌ですね。続けて「衣通姫(そとほりひめ)の、一人ゐて帝を恋ひたてまつりて」とあります。「衣通姫」は、第19代允恭(いんぎょう)天皇に召された女性で、膚の美しさが衣と通して輝いくほどであったことからその名があるといい、仮名序にも、小野小町がその系統であるとして名が記されています。「ささがにの」は「蜘蛛」にかかる枕詞ですね。日本書紀にある次の歌の異伝歌とされています。
わがせこが くべきよひなり ささがねの くものおこなひ こよひしるしも
わが背子が 来べき宵なり ささがねの 蜘蛛のおこなひ 今宵しるしも