漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 406

2024-05-26 04:46:30 | 貫之集

四月、池のほとりの藤の花

みなそこに かげさへふかき ふぢのはな はなのいろにや さをはさすらむ

水底に 影さへ深き 藤の花 花の色にや 棹はさすらむ

 

四月、池のほとりの藤の花

水底に藤の花が深い影を映している水面に、藤の色にも棹をさして舟は進んで行くのであろうか。

 

 「影さへ深き」は、水が深い上に藤の色も深い、ということでしょう。水面の上方には実際の藤の花があり、それが水面に色濃く映っている中を、小舟が棹をさして進んで行くさま。とても風情と情緒ある情景が浮かんで来ますね。 ^^

 

 


貫之集 405

2024-05-25 04:50:23 | 貫之集

三月尽くる日

こむとしも くべきはるとは しりながら けふのくるるは をしくぞありける

こむ年も くべき春とは 知りながら 今日の暮るるは 惜しくぞありける

 

三月の終わる日

また来年も来るはずの春だとは知っていても、三月末日の今日という日が暮れて春が終わってしまうのは、名残惜しいことだ。

 

 894 にほとんど同趣旨と思われる歌が出てきます。下二句が同一など、言葉もかなり共通していますね。

 

こむとしの ためにはいぬる はるなれど けふのくるるは をしくぞありける

来む年の ためにはいぬる 春なれど 今日の暮るるは 惜しくぞありける


貫之集 404

2024-05-24 05:22:58 | 貫之集

桜の花の散るを見たる

ちりまがふ いろをみつつぞ なぐさむる ゆきのかたみの さくらなりけり

散りまがふ 色を見つつぞ なぐさむる 雪のかたみの 桜なりけり

 

桜の花が散るのを見た

桜の花が散るのは惜しいことだが、白い桜が散るさまは雪と見紛うほどで、雪のかたみだと思えば心が慰められることであるよ。

 

 桜を雪と見立てるのは古典和歌の常套手段ですが、あふれるような深い想いが込められた詠歌ですね。


貫之集 403

2024-05-23 05:40:14 | 貫之集

おなじ御時の内裏の仰せ言にて

元日

けふあけて きのふににぬは みなひとの こころにはるぞ たちぬべらなる

今日あけて 昨日に似ぬは みな人の 心に春ぞ 立ちぬべらなる

 

おなじ御代の帝の仰せで

元日

今日元日の朝があけて、あたりがまったく昨日と違って感じられるのは、人々の心にも春がやって来たためであろう。

 

 「おなじ御時」は、第61代朱雀天皇の御代(930年~946年)のこと。年が明けると昨日と今日が違う、というのは現代でも感じる感覚ですね ^^
 この歌は、玉葉和歌集の巻頭(巻第一「春上」 第1番)に採録されています。

 


貫之集 402

2024-05-22 04:58:53 | 貫之集

十二月、仏名の朝、別るる空に

きみさらば やまにかへりて ふゆごとに ゆきふみわけて おりよとぞおもふ

君さらば 山に帰りて 冬ごとに 雪ふみわけて おりよとぞ思ふ

 

十二月、仏名の朝、別れる空に

あなたは山に帰って、また冬に仏名会のたびごとに、雪を踏み分けて降りてきてください。

 

 「仏名」とは十二月に宮中や寺院で行われ、一年間の罪障消滅を祈る法会のことで、022 にも出てきました。