十一月臨時の祭
あしひきの やまゐのいろは ゆふだすき かけたるきぬの つまにざりける
あしひきの 山藍の色は ゆふだすき かけたる衣の つまにざりける
十一月臨時の祭
山藍摺りの青い色は、木綿襷をかけた衣をひときわ引き立たせるいとぐちとなっているよ。
賀茂神社の臨時の祭事に携わる神官や舞人を称える詠歌。第五句の「つま」は「褄」で「いとぐち」の意。「臨時の祭」「山藍色」については 137 もご参照ください。
十月網代
やまがはを とめきてみれば おちつもる もみぢのための あじろなりけり
山川を とめ来て見れば 落ちつもる 紅葉のための 網代なりけり
十月網代
山の中の川を、紅葉を求めて来て見ると、川の網代はまさに落ちつもる紅葉のためなのであったよ。
「山川」はここでは山の中の川の意で、「やまがは」と濁って読みます。「やまかは」と読めば山や川の意ですね。
九月菊
いのりつつ なほながつきの きくのはな いづれのあきか うゑてみざらむ
祈りつつ なほ長月の 菊の花 いづれの秋か 植ゑて見ざらむ
九月菊
なお一層のあなた様のご長寿を祈りながら菊の花を植えて見ることのない秋がありましょうか。
秋には毎年必ず菊を植えて長寿を祈るということを反語表現で詠んだものですね。
この歌は新古今和歌集(巻第七「賀歌」 第718番)に入集しています。そちらでは「延喜御時屏風哥」との詞書が付されていますが、貫之集では 389 記載の通り天慶年間の詠歌とされていますので、新古今和歌集の詞書は誤りということのようです。
八月十五日夜
ももとせの ちぢのあきごとに あしひきの やまのはかへず いづるつきかげ
百年の 千々の秋ごとに あしひきの 山の端かへず 出づる月影
八月十五日夜
百年たってもかわらず、秋が来るたびに同じ山の端から昇る月影であるよ。
十五夜の美しい月を詠んだ歌。
「千々」「秋」「月」と来れば、良く知られた百人一首(第23番)の歌が思い出されますね。
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
月見れば ちぢにものこそ かなしけれ わが身一つの 秋にはあらねど
大江千里
(古今和歌集 巻第四「秋歌上」 第193番)