それにしても、長い道のりでした。
この本を買ったのは今年の5月でしたが、読むのは大抵帰りの電車でしたし、途中で他の本を読んでいたりもしたので、結局5ヶ月も掛かってしまいました。正直言うと、途中で何度か投げ出してしまいたい気持ちになり、その度に少し間を置いてまた続きを読む、ということを繰り返しました。
その原因は恐らく私の側にあって、あまりにもsolidで引き締まった文体になかなか慣れることが出来ず、初めのうちは読むペースが掴みづらい気がしていました。何とかペースが取れるようになってきたのは半分を過ぎてからで、それがちょうどplot(筋)の展開とタイミングがうまく合い、途中からは気持ちよく文章を楽しむ余裕が出てきました。
英作文をする時に、使う単語はなるべく少ない方が良いと教えてくれたのは高校時代の英語の先生でしたが、チャンドラーの文章はそれを地で行くような文体です。必要にして最小限の単語、それも情景描写はもとより登場人物の台詞まで、余分なところを削ぎ落とした文章。それが逆に行間で想像力を働かせるように仕向ける訳で、ここら辺の手法はさすがだと思いました。
後半、展開が急になる場面で、有名な台詞がいくつか出てきます。これまではその台詞を単発の表現としてしか知らなかったのが、その台詞にまつわる背景や経緯が分かると、月並みではありますが、なかなか味わい深いものがあります。それを詳しく解説してしまうとあらすじが分かってしまうので、ここではその表現を抜書きしておくだけにします。
"To say good-bye is to die a little."
さよならを言うことは、少しだけ死ぬことだ。
そして、冒頭の写真のくだり。
"I suppose it's a bit too early for a gimlet,"
ギムレットにはまだ少し早すぎる。
有名なのはこの2つですが、他に私が気に入ったのは、主人公マーロウのこんな台詞。何故こんなことに首を突っ込むのかという問いに答えるように、「(それは金のためではなく)I told you I was a romantic. 言ったろう、俺はロマンチックなんだって」と言うくだり。
もう一つ。この小説では色々なGood-byeが出てくるのですが、マーロウが最後の方でこんなことを言います。
"I won't say good-gye. I said it to you when it meant something. I said it when it was sad and lonely and final."
これを訳すと筋がバレてしまうので、是非とも原文で味わって下さい。ハードボイルドここに極まれり、という感じですね。
ペーパーバックで448頁。思い返してみると途中の出来事や表現、ちょっとしたヒントが最後にはうまく絡み合って結実する、上質のストーリーでした。英語の教科書に載せるには少しくだけた表現も見られますが、慣れるとその簡潔な文体、リズミカルなテンポに引き込まれます。同時にここが人によって合う、合わないの境目なのだと思います。私の場合、学生時代から聞いていた名作と名台詞をやっと読破することが出来て、ささやかな達成感に浸っているところです。
しかし・・・ここ数日は家に帰ってからも読み続けていたので、少し疲れ気味です。次はもう少し短めの、軽いお話を選ぼうと思っています。
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