7月2日の都議選で自民党が大敗し、その後の世論調査で内閣支持率が急落すると、自民党内の憲法改正に対するムードは、大きく変わってきました。変わらないのは安倍首相の憲法改正意欲です。そこで、安倍首相は表向き経済優先「アベノミクス」を立て直そうとしていますが、間が抜けた感は否めません。失われた支持率回復への起爆剤が活力や新鮮味の無い、改憲重視の「お年寄り内閣」です。
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安倍政権発足以来の口先だけの改革の結果、筆者がかねて警鐘を鳴らしてきた通り、冒頭で記した2020年度までのPBの黒字転換という国家目標は実現しそうにない。
内閣府が経済財政諮問会議に示したシナリオには、「楽観シナリオ」と「慎重シナリオ」の2つがある。
このうち楽観シナリオは、実質2%以上、名目3%以上という、現状よりも1%程度高い経済成長率の達成を前提条件にしている。加えて、生産性についても、過去のバブル期並みの高さに回復する、とかなり現実離れした前提条件を置いた。
それほど楽観的な前提条件のもとでも、これまで政府が掲げてきた目標の達成どころか、国と地方で8.2兆円もの赤字が残るという深刻な見通しになったのである。
シナリオ公表を受けて、安倍首相は記者会見で、「財政健全化のためには歳出改革の確実な推進とともに持続的な経済成長が不可欠」と強調した。しかし、経済成長だけでは目標は達成できない。もし楽観シナリオが実現したとしても、PBの黒字化達成は5年先の2025年度になる。
一方で、慎重シナリオが前提条件にした経済成長率は実質0%、名目1%程度。こちらのシナリオだと、2020年度のPBは10.7兆円の赤字で、なおかつ赤字が拡大し続け、2025年度には14.2兆円まで膨らむ見通しとされた。
これほど厳しい見通しが示されたにもかかわらず、安倍政権に財政再建に取り組む意欲はみられない。それどころか、7月19日付の産経ニュースによると、政府は早くも、PBの黒字化目標の達成時期を3年ほど先のばしする検討を始めたそうだ。
安倍政権は、財政規律の強化にも関心を示していない。
現行目標の達成が困難という見通しの発表に先立ち、安倍政権は6月に決定した今年度版の「骨太の方針」で、これまで明記してきた消費増税の断行方針を削除した。その代わりに、PBの黒字化と並ぶ重点目標として「債務残高のGDP比の安定的な引き下げ」を掲げた。
この新目標には、カラクリがある。
じつは、内閣府が示した楽観シナリオで進んだ場合、債務残高のGDP比は190%(2016年度)から163%(2025年度)へと、自動的に低下する。従来の厳しいPB目標と違って、この新目標は、経済成長さえ続けば簡単に実現できるのである。安倍政権は、バラマキ財政を続けるのに都合のよい目標を設定したわけだ。
バラマキ財政と言えば、政府が20日に閣議了解した来年度予算の概算要求基準の問題もある。
昨年度、7年ぶりの税収減で赤字国債の追加発行を余儀なくされた現実を直視せず、引き続き経済成長による税収増をあて込んで、5年連続で歳出総額の上限を定めなかったのだ。
その一方で、新たな成長戦略と称して、4兆円程度の特別枠を設けて「人づくり革命」の関連策に重点的に配分するという。
また、「貿易自由化の程度は、すでに対策を打ったTPP(環太平洋経済連携協定)と同程度だ」と国民に説明したはずなのに、安倍首相は、先に大枠合意した日欧EPAに関連して、新たに農業に手厚く予算を割く考えを表明している。
つまり、「人づくり」とか「日欧EPA」という羊頭狗肉の看板をかけただけで、バラマキがくり返されることが確実なのだ。
安倍政権の姿勢には、財界人たちも懐疑的だという。
経済同友会は7月13日、長野県軽井沢町で夏季セミナーを開いたが、この場で、政府が6月に決めた「骨太の方針」への批判が噴出したのだ。
日本経済新聞によると、政府が新たな目標に加えた、GDPに対する債務残高の比率について、「GDPが増えれば借金を増やしてよいという言い訳に使われる恐ろしい指標」(商船三井・武藤光一会長)、「(新財政目標を)悪用すれば、財政支出でGDPを上げることもできる。本末転倒だ」(アサヒグループホールディングス・泉谷直木会長兼CEO)といった批判が相次いだ。
また、2019年10月に予定されている消費税率の引き上げに関し、今回の骨太に明記されなかったことから、「骨太とは言えない」(ANAホールディングス・片野坂真哉社長)との苦言も聞かれたという。
政府・自民党はこれまで、財政再建を骨抜きにする際に、「成長なくして、財政再建なし」というロジックを掲げてきた。安倍政権が、「社会保障と税の一体改革」を「経済・財政一体改革」と言い換えてしまったことも、そうした景気優先・財政再建軽視の裏返しだろう。
すでに述べた橋本政権の失敗からも明らかなように、財政再建を性急に実現しようとすると、財政支出削減に伴う需要不足、消費増税に伴う消費意欲の減退、設備投資マインドの冷え込みなどを招き、経済成長を損ねるリスクがあるのは事実だ。
しかし、だからと言って、経済成長を理由に、野放図な財政出動と過度な国債の増発をくり返していては、財政再建を実現できるわけがない。財政再建には、長期的視野に立って、バランスを取りながら、粘り強く取り組む姿勢が不可欠なのだ。
安倍首相は、常に経済優先を掲げながら、アベノミクス「3本の矢」を推進してきた。しかし、その中身はと言えば、財政バラマキと異例の金融緩和という時間稼ぎ策だけだ。
経済の潜在成長力の回復に不可欠だった成長戦略(第3の矢、岩盤規制の見直しなど)はほとんど実質的な成果をあげられず、逆に森友学園や家計学園のスキャンダルを招いて、議論の時間を無駄に費やしただけだ。
いまとなっては、政権基盤が瓦解しかねない安倍政権に多くを期待するのは難しい。消費税などの増税を断行できる強固な後継政権を期待することも困難だ。やはり、実際に財政が破たんしないと、スタート台に立つことすら難しいのが、本格的な財政再建の道なのかもしれない。
町田 徹