中国経済の先行き不安が一段と高まっている。ゼロコロナ政策は続く。不動産バブル崩壊も深刻化する。必要とされる以上に鉄道などが延伸され、資本の効率性も低下している。景気の減速懸念が高まり、中国から逃避する資金が増加している。
習氏の2013年の国家主席就任以来、現代中国の資本市場における外国勢のプレゼンスは著しく拡大した。政府は香港を通じた株式・債券取引接続や主要なグローバルベンチマークへの人民元建て資産の組み入れといった、資金の流入経路を構築してきた。資金流入を促進し、民間企業への資金を賄い、経済を活性化することが狙いだったが、その一方で資金流出には厳重な規制を維持してきた。
しかし、習政権は昨年、国内で最も収益性の高い企業に対する一連の締め付け策を打ち出した際、世界の投資家をほとんど無視した。その結果、株主が損失を被っただけでなく、共産党の目標を巡る不信と混乱が生じた。また、今年に入りロシアのウクライナ侵攻に加え、習政権がゼロコロナ政策に固執したことで、米国との貿易戦争中に芽生えた中国資産に対する警戒心も強まった。
EPFRグローバルは今月のリポートで、新興国市場の株式ファンドにおける中国への配分は3年ぶりの低水準に落ち込んでおり、警戒感の表れだと指摘していた。 中国資産に関する世界の投資家の議論は、押し目買いの時期よりも、エクスポージャーをどれだけ減らすかが焦点となっている。ロンドンに本拠を置くあるヘッジファンドは米顧客からの圧力で中国のロングポジションを一つに減らしたと、社内案件だとして関係者1人が匿名で語った。チューリヒに本拠を置く投資マネジャーによると、欧州の年金基金と慈善団体の一部は、地政学的およびガバナンスのリスクの高まりを理由に、ポートフォリオへの中国の組み入れをもはや望んでいないという。
8月1日からは改正版の独占禁止法が施行される。
当面の間、世界的に石炭や天然ガスなどの不足は続く。穀物をはじめ食糧も不足する。それによって中国ではモノやサービスの価格が上昇するだろう。雇用・所得環境は悪化し、社会の不満は増大しやすい。統制強化のために共産党政権はIT先端企業の締め付けを強めざるを得ない。
2020年8月の“3つのレッドライン”の導入などをきっかけにして、中国は高度経済成長から安定成長へ曲がり角を曲がった。
ゼロコロナ政策が当面の経済活動を阻害する。不動産バブル崩壊の深刻化により信用リスクは上昇する。企業の倒産は増える。それによって中国の失業率は上昇するだろう。景況感のさらなる悪化は避けられそうにない。
一段と厳しさ増す中国経済
中国経済の厳しさが増している。
6月の生産者物価指数と消費者物価指数の変化から確認できる。まず、川上の物価を示す生産者物価指数は前年同月比で6.1%上昇した。5月の上昇率は同6.4%だった。
6月から上海の都市封鎖は解除された。
世界的に生産者物価指数は多くの国で上昇基調にある。
その中で生産者物価の伸び率が鈍化したことは見逃せない。
その背景には複合的な要因がある。
まず、内需が伸び悩んでいる。
依然としてゼロコロナ政策の影響は大きい。
供給の制約が続き、思ったように生産が持ち直していないこともあるだろう。
他方で、6月の消費者物価指数は同2.5%上昇した。
上昇率は前月から0.4ポイント伸びた。
それは需要拡大によるものとはいえない。
消費者物価上昇の一因として、豚肉の不足がある。
共産党政権は豚肉の肥育増加を急いでいる。
しかし、ゼロコロナ政策によって生産頭数の増加は容易ではないようだ。
ウクライナ危機をきっかけに穀物価格は上昇し、肥育コストも急増している。
それに加えて、石炭や天然ガス、ガソリンの価格も上昇している。
足許、共産党政権は割安なロシア産原油の輸入を増やしている。
それによって家計の支出負担を何とかして引き下げなければならない。
しかし、習政権の努力を上回るペースでモノやサービスの価格が上昇している。
ウクライナ危機やゼロコロナ政策の長期化によって、川上の物価上昇圧力は強まりやすい。
その一方で不動産価格の下落などが内需を圧迫する。
コストプッシュ圧力に耐えられなくなる中国企業は増えるだろう。
懸念される失業率の上昇
今後の展開として、中国の失業率(都市部の調査失業率)は上昇するだろう。
共産党政権がインフラ投資の積み増しなどによって雇用を増やすことは難しくなった。
中国国家鉄路集団は路線延伸によって債務残高が120兆円余りに膨らんだ。
新規の鉄道案件はほとんどが赤字路線とみられる。
その状況は、わが国のバブル崩壊後に似ている。
債務問題は深刻化するだろう。
不動産市況の悪化も避けられない。
8日には中国恒大集団(エバーグランデ)が人民元建て社債の償還延期を求めた。
しかし、債権者は延期を拒否した。
不動産セクターでは本格的なデフォルトが連鎖的に増加するだろう。
信用リスクの上昇は不可避だ。
企業の倒産件数は増える。
雇用・所得環境は一段と悪化せざるを得ない。
河南省などでは銀行の預金が引き出せない事態が発生した。
その一因は、バブル膨張によって過度に先行きを楽観する心理が高まったことだろう。
それがずさんなリスク管理の温床になった。
ひとたび不動産市況が悪化するとともに地方銀行の資金繰りは急激に悪化した。
その裏返しとして預金引き出しに応じられない銀行が出現した。
同様のケースは増える可能性が高い。
上海などで感染が再拡大している。
断続的に動線は寸断される。
人々の防衛本能は高まる。
物流コストの増加が、豚肉や燃料の価格を押し上げる。
内需はさらに落ち込む恐れが高い。
失業率が高まり、個人消費も減少するという具合に、負の連鎖反応が鮮明化するだろう。
中国の景気減速が鮮明となれば、欧州やアジアを中心に世界経済の減速懸念も高まらざるを得ない。