秘密曼荼羅十住心論に説く十悪の果報、２（（偸盗の果報））

秘密曼荼羅十住心論に説く十悪の果報、２（（偸盗の果報））
又た其の殺生の縁によりて貪害滋（しげ）く多し。滋く多きを以ての故に便ち義讓なくして劫盜を行ず。今身に偸盜して與へざれば、死して即ち當に鐵窟地獄（ここでは黒縄地獄を指す）に堕して遐劫中に於いて諸苦惱を受く。受苦既に畢って畜生中に堕す。身に常に重きを負ひ、驅蹙捶打（くそくすいだ・おいつめられむち打たれ）せられて餘息あることなし。所食之味は唯だ水草を以てす。此之中に處して無量に生死す。本因縁を以て若し微善に遇ふて、劣（たまた）ま人身に復すれば恒に僕隸となり、驅策走使せられて自在を得ず。償債未だ畢らざれば聞法するを得ず。此によりて苦を受け輪迴無窮なり。當に知るべし、此の苦は皆な偸盜によるなり。今身に光明を隱蔽し、光明を以て供養三寶せず、反って三寶の光明を取りて以て自の燃に用ひらば、死して即ち當に黒耳・黒繩・黒闇地獄に堕して遐劫中に於いて諸苦惱を受く。受苦已に畢って蟣虱中に堕して光明に耐へず。此之中に在りて無量に生死す。本因縁を以て若し微善に遇ふて劣（たまた）ま人身に復せば、形容は黶黒垢膩不淨（えんこくくにふじょう）なり。臭處穢惡にして人に厭遠せらる。雙眼盲瞎して天地を覩（み）ず。當に知るべし光明を隱蔽すること亦た偸盜によるが故なり。故に地持經（華厳経のこと）に云ふ、「劫盜之罪も亦た衆生をして三惡道に堕す。若し人中に生じても二種の果報を得る。一は貧窮。二は共財自在なるを得ず」と。劫盜は何が故に地獄に堕するや。其の劫盜は人の財を剥奪偸竊して衆生を苦しむるを以ての故に身死して即ち寒氷地獄（八熱地獄に付随する小地獄）に入りて備（つぶさ）に諸苦を受く。劫盜は何が故に（地獄界を）出でて畜生となるや。其れ人道を行ぜざるを以ての故に畜生の報を受けて身常に重きを負ひ、宍を以て人に供して其の宿債を償ふ。何が故に復た餓鬼に堕すや。慳貪を以て便ち劫盜を行ずる縁によって是を以って畜生罪を畢りて復た餓鬼となる。何が故に人と為りて貧窮なるや。其の劫奪は物をして空乏ならしむ所以により貧窮なり。何が故に共財自在を得ざるや。其の劫盜偸奪は官に没せらるるにより若し財錢有らば則ち五家のために共せられて自在なるを得ず。當に知るべし劫盜は二の大苦也。