今日弘仁十年三月十日は大師が下野の太守に礼状を送られた日です。
「下野の太守紀百継宛
貧道去んじ弘仁九の冬月をもって閑寂に紀州の南岳に就く。十年春、葛生(大師の使者、葛木魚主かとされる)に附して恵まるるところの銀鈎(ぎんこう、銀の飾り)幷に土物、高雄寺より転送し来たれり。書を開いて指南を承る。物を覩てその人を想う。すなわち還答し奉らんと欲するに葛生鎮西に下って今に未だ帰らず。この事をもって久しく闕如す(失礼した)。計るに必ず恠あやしむことあらん。松巌の下、白雲の人を想う。秋月一たび推して春華再び開く。朝朝夜夜誰か九廻(九回腸、憂悶)に堪えん。故怠にあらざることを恕さば(故意に怠ったのでない事を許さば)深き幸いなり。今便風によってこれを奉る。不具。南岳沙門遍照状し上る。
弘仁十年暮春十日
下野の太守記室」
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