蔵菩薩三国地霊験記 8/14巻の7/13
七、 信者の害を助け給ふ事
天下平家の世の時、清盛福原の京にましますが雑色に貞守と云者の事の子細ありて平の兵衛の尉に申し付け、明日刑罰すべしとぞきわまりぬ。彼の者兵衛尉に向て云く、多年のよしみに今夜少しの間いとまをたび玉へ。六波羅の地蔵へ今生のなごりに詣で又八旬におよべる老母に最後の言をかはしたく侍るなり。若しさあるにをいては明日午の時(正午)には必ず皈り参らんと涙を流しながら申しけるれば兵衛も哀れに思て許容しけり。貞守よろこびで急ぎ六波羅に参り一心に祈念しそれより母のもとに立ちより対面しぬ。又頓に参りて申さんと。さらぬ躰にもてなし忍涙ををさへて出にける。去程に其の夜の事なるに大相國の夢に僧の一人来たり玉ひて又をもって清盛の頸を挟みて宣けるは貞守がきびを切るべき道理なし。若し誅せば汝がくびを挟み切んとて、息をもせざるほどにはさみつめ玉ひけり。夢覚めて後いそぎ使者をつかはして貞守を召し、事の子細を尋ねられければ、ありのままに申すを入道御感あって許し玉ひける。有難く思ひそれより遁世して六波羅蜜寺の邊に庵を結び朝夕地蔵を信じたてまつる。目出度く往生しけるとなん。
引証。十輪経に云、若し諸有情應に囚執され鞭撻拷楚し臨當に害さるべきに 能く至心に地藏菩薩摩訶薩を稱名念誦歸敬供養する者は、一切皆囚執を離れ鞭撻加害を免るを得ん云々(大乘大集地藏十輪經序品第一「若諸有情應被囚執鞭撻拷楚臨當被害。有能至心稱名念誦歸敬供養地藏菩薩摩訶薩者。一切皆得免離囚執鞭撻加害」)。