安政6年の今日10月27日(1859年11月21日)、吉田松陰は安政の大獄に連座し、江戸伝馬町牢屋敷に投獄され安政6年10月27日、伝馬町牢屋敷にて斬首刑に処されています。享年30(満29歳没)でした。毎年山口と世田谷の松陰神社では例大祭が行われます。
平成27年、福聚講で江戸33観音を巡拝した時、この処刑場跡に建てられた大安楽寺を参拝しましたがそのとき、ご住職から「このとき松陰と同牢だった堀 達之助(のち許されて江戸幕府通詞、辞書編纂者)の玄孫 堀 孝彦氏(名古屋学院大学名誉教授)が先日突然来寺され「処刑時の松陰の様子を『今までみたことのないような晴れ晴れとした顔で堂々たる様であった』と子々孫々つたえらるようにいわれています」とはなされていきました。」という話をお伺いました。
こういう松陰の覚悟がどこから来ているかを不思議に思っていたのですが、これは松陰のふかい仏教理解から来ていることがわかりました。それは吉田松陰が妹千代子にあてた手紙「妹に諭す」のなかでわかります。
「妹に諭す」の一文は「観音の霊験・中根環堂」でみつけました。松陰は観音経の深旨を理解していました。要点を載せておきます
「この間は御文下され観音様の御洗米3日の内に精進にて頂きさうらうやうにとの御事、ご親切の御志感じ入り申し候。そもそも精進潔斎などは随分心のかたまり候ものにてよろしく存じ候につき拙者も二月二十五日より三月晦日まで少々志の候へば酒肴なども一向食べ申さず候。
・・そもそも観音信仰せよとの事は定めし禍をよけ候ためにあるべく・・法華経二十五の巻普門品と申す編に観音力と申すこと悉く高大に述べてあり候。大意は観音を念じ候へば縄目にかかり候へば忽ちぶつぶつと縄が切れ、囚屋に捕らわれ候へば忽ち錠・鍵がはずれ、首の座へ直り候へば忽ち刀がちんち゛に折れるなどともうしてこれあり候。これは拙者江戸の囚屋にてこの経は幾度も繰り返し読みて見候へども始終この趣きに候。それ故、凡人はこれよりありがたきことはなしとして信仰するも無理なく候。さりながら仏の教えは奇特なる仕掛けにて
大乗・小乗と二つに分かちて、小乗は下根の人の教え、大乗は上根の人の教えとさだめこれあり候。
小乗にて申し候へば観音は右の(上に書いたような)経文のとおりのものと心得、ひたすら信仰するに御座候。こえは人に信を起こさする為なり。信を起こすとは一心に有難いことじゃとのみ思い込み、余念他慮なきことにて一心不乱と申すもこの事也。
人は一心不乱になりさえすれば何事に臨み候てもちっとも頓着はなく、縄目も囚屋も首の座も平気になれ候から世の中に如何に難題苦患の候てもそれに退転して不忠不孝無礼等仕る気遣ひはなし。されど初めから凡夫に一心不乱じゃの不退転じゃの申し聞かせてもさっぱりみみにはいらぬもの故に仮に観音様を拵えて、人の信をおこさせ給ふ教えに御座候。それを方便とも申し候。これにつきて法華経に都上りの喩これあり、至極面白く候へども事長ければ略し候(「傾城寶処」の譬えか)。さて大乗と申す方にては出世法と申すことが肝要に御座候。出世と申し候ても立身出世など申すことには御座なく候。・・(釈尊は)三十にて出世とて僅か五年の間に生老病死を免縷々ことを覚り、生まれもせねば老いもせず病も死にもせぬことを悟って出て来て、それから世の人を教化せられたり。これがすなわち出世の法なり。故に出世せねば済世ができぬと申すもこのとこあり。済世といふはすなわちこの世の人を再度する事に御座候。さてその死なぬと申すは近く申さば釈迦の孔子のと申す御かたがたは今日まで生きてござる故、人が尊みもすれば有難がりもする、畏れもする。果たして死なぬに候はずや。死なぬ人ならば縄目も囚屋も首の座も前申す観音経の通りは候はずや。楠正成じゃの大石良雄じゃのと申す人々は刃物に身を失はれ候へどもいまもって生きてござる、すなわち刀がちんち゛に折れたる(観音経の「臨刑欲寿終、念彼観音力、刀尋断断壊」のこと)証拠なり。・・・心学本に『のどけさやねがひなき身の神詣で』、神に願ふよりは身に行ふが宜しく候。」
安政6年、江戸の長州藩邸から、評定所に召出された時、「まち得たる時は いまとて武蔵野よ いさましくも 鳴くくつわ虫かな」と詠んでいます。3回の取調べを受け、死刑を覚悟。「月、処刑の日、松蔭は、同囚の士に「今吾れ国の為に死す 死して君親に背かず悠々たり天地の事 鑑照明神に在り」と述べています。刑場では、「身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留置まし大和魂」」の歌を朗誦して、従容として刑に着いたといいます。
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