福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

坂東観音霊場記(亮盛)・・・1/31

2023-08-01 | 諸経

 

坂東観音霊場記大成縁由

夫れ怖畏多しと雖も命を落とさんと為すより切なるは無く、喜樂多しと雖も壽を延るより慊は無し。余往んじ寛延庚午(1750)の冬、同學数輩と倶に錫を和州の長谷寺に掛んとして往て宮の駅にて船を買て桑名の津に渡んとす。其の水上の行程七里なり。其の日平明に雪踈々として忽ち晴ぬ。思に風吹起ん気色なる故、即ち津吏(ふなやくしょ)に就いて船出して可や否やと海上の安危を窺ひければ、津司答て、宲(まこと)に然り、午の刻(11時から13時)ばかりには極めて風あり。桑名迄は風より先に着船すべし。慮勿し玉ひぞと。仍て艤を放て出しけり。其の日誠に浪細かに天暖にして、軈て桑名も見つらんと思し處に、同船の中に重擔を運送する商人数多あり。船を四日市に繋れば甚だ便利なりと。商人も誘ひ船人も勧む。勿論我船より先に發たる三五艘は皆四日市の方へと赴きければ、如何せんと進退猶豫する間に、船は頗る荒波に指向へり。日未だ午ならざるに猛き風暴に起て櫓舵を廻すに遑あらず。帆は裂け橦も折て、雷電の落たるかと疑ひ、打波舷を摧て、舳艫も破たるかと訝り、其初より四日市に赴きし船三艘は目前海底に沈む。見る目に膽を消し叫ぶ聲に、神(たましひ)を失ふ。何と船人途程にせば、幾許り海中へ漂ひ出たるや。船人答て曰く、一浪にも一里二里は行べし。方角さへ分たざれば里数の程は知べからず、われら六十年舩中に営ども斯る大難は聞きも傳へず。況や身に取て覚なし。審(あきらめ)玉へと、歎くに舩中力を失ひ、生たる心地は更に無し。此浪に溺るるか彼底に沈かと。屠處の羊も譬に足らず。唯断息を待耳なり。時に余同舩を呼集ひ、今一生の限なり。皆各各に終焉の覚悟あれ。併ら我長谷寺の観世音は異国迄も隠れ無き利生掲焉(いちじるし)き本尊なり。別して海上風波の災を除き玉へば、各各心願を執りて然るべしと。我又久く坂東霊場に帰依して其縁起大成せる無事を憾む。因りて密に祈誓して曰く、大悲本誓愆ずして此の諸人の限命を助玉はば、我三十三所に巡詣し、其霊場の縁由を集て永く大悲の利生を傳へ海適の恩を報じ奉んと。一心帰命して諸人と倶に普門品を読誦せり。ああ奇なる哉、玅なる哉、風未凪ざるに舩戻こと百里計り。浪静に舩平にして、綱を以て引くが如く即時に浅處を得たり。舩人等大きに喜んで曰く、始めて東西を知たり。桑名も程近し。皆人安堵し給へと云に人々力を得て、漸く人心地をこそ覚たり。斯て半刻計にして桑名に著ぬ。(初瀬所化定宿鶴屋市左衛門)時に夜

将に三更(午後十一時から午前一時)なり。幸に鱗甲の腹中に葬られず、海底の藻苔と成ざること、是偏に初瀬の観世音幷に坂東薩埵の利生なりと日として其恩徳を忘ること能はず。今茲(ことし)六月朔日首途して坂東三十三所巡礼の次其各各の寺院に乞ふて其各各の縁起𦾔記を謄し、或は其地の古老の口實を諮ひ、或は他の雑へ誌を撰み、集て大成して十巻と為し名けて坂東観音霊場記と称す。唯願くは我同志の者、此記に依て以て信心を起し、信心に依て以て巡礼を催し、巡礼に依て以て薩埵の利生を蒙り利生に依て以て二世の樂果を結んことを尒云。

旹明和第三龍集丙戌冬十二月廿一日 武原人東阜山口千手谷沙門大仙亮盛

 

・・・

坂東霊場の開基者居士道人等と称して行状未詳者は皆大悲者権化の所為ならん。經の中に観世音、種々の形を以て諸国土に遊び衆生を度脱すと説玉ふ故に。

往古の上人大徳等不思議の因縁を感じ末世の衆生の為に各々佛閣神社を開基し玉ふ。其始終を記す者を縁起と云。法華経に云、佛種縁より起こすと。楞伽経に云、佛縁起を説く、と。儒家は五常を宗とし、道家は自然を旨とし、佛家は因縁を本とする也。

三十三所の中、特に行基大士の事跡多し。按ずるに行基大士は泉州大鳥軍高志氏の産、百濟國王の後胤にして出家し廿四歳にして具足戒を受。常に行化を事と為玉ふ。道俗の随従する者凢そ千百を以て数ふ。過る所の険阻なるには必ず桟を架し路を修る。又農稼の為に地の乾湿を指へ、谷を決り河を通じ塘を築き水を防ぎ、諸州往々に功益を布玉ふ。聖武帝特に尊重し玉ひ、天平七年大僧正に任ぜらる。日本大僧正の賜官の始也。同く廿一年正月、皇帝菩薩戒を受玉ふ。此時,號を大菩薩と賜ふ。同年二月二日、菅原寺の東南院に寂す。行年八十有二也(元亨釈書)。我朝に佛法の流来ことは人王三十四年代、推古帝の御宇、聖徳太子の善巧なり。其後人王四十五代聖武帝の御宇、行基大士の時に至て徧く四維八荒に弘れり。諸州に於いて霊場を發し多く諸尊の像をつくり玉ふは天勅を蒙り、行化を事と為玉ふ故なり。毎國に國分寺を建て風土紀を著し、日本の圖を畫く等、皆此大士の遺功なり。恒に随従の道俗千餘百に及ぶと。宲に夫然ん乎。蓋し地上の権者あるべし。三地の菩薩は身を百億に分てば

凢情を以て聖境を料る可らず。・・

 

 

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