讃観世音菩薩頌和釈・・11/20
悪賊縛人
「惡賊突厥彌戻車 兇險無慈若羅刹 復以鐵鎖繋縛人 稱名發念皆解脱」
悪き盗賊の突厥(あざむきあばき)て人の財を乗せて送る車を戻す、其の兇險にして慈無きこと羅刹の如し、復た鐵鎖を以て其の人を繋縛るに其の人観音の名を称へ念ずれば解脱を得と也。
江州の大溝(滋賀県高島市)に千輔といふ商人あり。都に商物を舩に積んで坂本より馬にて山中村越に送るとて日暮れに白川坂を通るが山林より盗賊の刀を抜いて出しが千輔は驚き誤りて谷川へ落しが専に観音の名を唱居しが盗人は人違いにや已に馬人を木に縛りて己が男を殺して馬を導て逃げ去りぬ。千輔は漸く事の静りて道へ上がりて自の衣を見るに、刀にて切るごとくに割けて有ぬとなん。