讃観世音菩薩頌和釈・・8/20
堕落火坑
「若人墮落大火坑 專志稱名觀世音 其人除熱得清淨 猶若池中華開敷」
若し人有り大火の焚ける穴に陥り専心に観音の名号を唱れば火中に居れども其の人は火熱を受けず。身に清涼を得んこと池中の蓮花の開敷したるが如くにて、泥濁に染まぬとぞや。
浪華の坂町の裏屋に住なす千代といふ女は二月堂の牛王を厚く信じて恒に守り袋に入れて首に懸けて居けるが夜中に表の家より火出で左右に焚回て小小路に出ることならず。漸くに家の棟に上がりければ火いりて瓦とともに堕るが心に観音を念じて命終すと意得しが泉水に落ちて躰は破れ無くて命は助かりける。