観音經功徳鈔 天台沙門 慧心(源信)・・3/27
二、當品を讀誦して疫病を除く事
昔大唐河西の象遜王といふ御座します。其の比國中に大ひに疫病を煩ふ也。帝王之を悲しみ玉ふ處に折節天竺より伊婆勒菩薩( 曇無讖 どんむせん (385-433)。中インド出身の訳僧)と云人来玉ふなり。此の菩薩此の由を見て、法華普門の一品をっ切りだして万民に之を誦せしめ、のたまふに自ら疫病消除すべしと奏聞し玉ふなり。帝則ち勅宣を下して各々人民に普門品を読誦せしめ又は札に書きて道邊に立玉へり。國中の諸人之を見て各々普門品を読誦するに依って疫病ことごとく除滅して天下安穏なり。故に當途王經と云ふなり。又道暹の甫正記には(法華天台文句輔正記。『法華文句』『法華文句記』の注釈書中国・唐の僧・道暹による著)途は道なり、亦は世なり、王は尊なり大なりと釈せり。途といふは世の義なり、王と云ふは尊の義なり、仍って當今の世に最尊の経なりといふことなり云々。