私が小学六年生のころです。私の家は学生服の製造をしており、両親も毎日忙しくしておりました。
私はある日縫製工場によちよち立ち入って機械にはさまれてしまいました。私の衣類がモーターのシャフトとベルトに巻きつき幼いわつぃはあっという間に巻き込まれてペッタン、ペッタンと何回となく回転したそうです。私の悲鳴で両親は初めて気付き、あわててモーターの電源を切ったのですが、そのときはわたしはすでに虫の息だったそうです。顔も体も黒紫色になり、泣き声すら立ててなかったといいます。このとき母は自分の不注意で我が子を殺してしまったと思ったということです。
しかし、皆が病院だ医者だと大騒ぎしてはしりまわっているうち私は正気を取り戻して手足をうごかして自分で起き上がっていました。
皆はびっくりするやら感心するやらで私を見守っていましたがそのうち私が口をもぐもぐさせているのに気付きました。両親が口の中に手を入れて中のものを出させたところなんと私は小さな金色の佛像を口に入れていたのです。これは庭先で直前に私が拾った大日如来様でした。この子の一命を助けていただいたのは大日如来様だとその小さな仏像を、両親はそれはそれは大切に仏壇に祀りしました。
それ以来この子は大日如来様に助けられた子だと近所で評判になりました。
そんな体験から私は長じていつのまにか信仰の道にいそしむようになりました。
遍路にも行かせて頂きました。あるとき四国60番横峰寺に皆さんと参詣しました。険しい山道をやっとのおもいで登りやれやれやっと横峰寺についたと思ったら此処は横峰ではないといわれたのです。
がっかりしているといままでたくさんいた人影がなくなっているのです。空も曇ってきてあたりも薄暗くなりました。私は不安になりました。そのとき不意に墨染めの衣に錫杖のお坊様が現れて「もしもしあなたはつかれたでしょう。ここでおやすみなさい」と近くの岩を指されるのです。私がおどおどしていると「心配要りません。あなたはよく頑張っていますよ」とおっしゃるのです。わたしはついついそこに座り込み、そのお坊様と話し込みました。「信仰をすればするほど皆が自分からはなれてしまうようで情けないです。」とお話しますとお坊様は「そういう思いになるのはあなたが成長している証拠です。踏み潰されても傷つけられても耐え抜いている麦を見て御覧なさい。寒い中で踏みつけられてもたくましくすくすくと伸び、あとでたわわな実をつけるのです。あなたも強くなればきっと成功し幸せになれます。」とおっしゃいました。
わたしはこのお坊様になにもかも話して悩みごとを相談しようかしらと思いそちらを見るといつのまにか影も形もありません。周りを見渡すといままで人っ子一人いないと思っていたのが沢山の人がいるではありませんか。
いまのお坊様は誰だったのか。もしかするとあれがお大師様だったのかもしれない。お大師様がわたしをご指導くださったのかもしれないとハッとしました。
このあとみなさんと山道を下って横峰寺に着きご法樂をあげましたがなんとここのご本尊様は大日如来様でした。目を閉じて拝んでいると先のお坊様が瞼の裏に浮かんできます。あのお坊様はやはりお大師様だったのだと私は有り難涙に咽んだことでした。
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