「昔、比丘あり、行く道に渇きに迫り水を得て 蟲の命をあわれみて 死して道果を得たりけり」ここは第一不殺生戒の功徳をのべる。此の最初の四句は水中に虫あるを飲まずして道果を得たる功徳を讃嘆せるなり。二人の比丘三か月の夏安居を満じて、世尊を拝し奉らんと道にしたがって行きしが、残暑強くて渇きに苦しめり。水を得たが無数の虫有。一人は世尊の制戒は虫ある水を飲むを許さずとて飲まずして渇きに依りて死す。一人は水を飲み生きることを得て世尊を拝す。しかしかの渇死せる比丘も命終して忽ちに四王天に生じることを得、身相具足するをえて閻浮提に下り世尊の足を拝し三帰依法を受け自誓して不殺生等の五戒を受けおわりて法眼浄(衆生を救済する為にすべてを見通す浄い心の眼)をえたり。世尊の説法会座に連なりて一辺にありて恭敬して法を聞けり。その身、光明赫赫たり。世尊、虫水を飲みて来たれる比丘にいわく「汝、我が肉身を見るといえども未だ我が法身を見ること能わず。かの渇死せる比丘は既に天堂に生じてかくのごとく光明の色身を得て汝に先立ちすでに我が肉身を見、またよく法眼浄を得て我が法身を見ることを得たり。」と示し給へり。およそ世間の凡夫はみだりに肉身を恋慕して種々の悪業を作り、真実に如来正法の戒律を信受し奉行すること能わず。生々世々に生死の流れに浮沈して六道に輪廻し解脱涅槃の彼岸に至るを得ざるはいと口惜しき次第なるぞ。・・kま末代の比丘、破戒乱行にして悟道し往生し見佛門法せんと欲するは木に登りて魚を求めるが如く至難の事なり。・・いま善男善女は深く十悪十善因果応報の真理を信じ、仏あることを信じ、戒法あることを信じ、僧あることを信じ、自らよく十善戒を護持し、またよく人に教えて十善戒を護持せしめ、因果応報の真理は自心本具の性徳にして佛の所作にもあらず、祖師の所作にもあらず、是をまもれば天然として吉慶幸福を来たし、将来必ず解脱の妙果を得ん。是に背けば必ず災殃凶害を招き、末永く悪趣に沈淪して父母三宝の名を聞くことを得ずの悪報を感ぜんことを信じて深心に十善戒体(戒を受けると戒体が体に中に生じる)を護持せらるるは実に末代稀有の善事にして宿善の招くところなることを深信省察して仏祖の鴻恩を報謝し父母国王四恩の鴻徳を酬答せんことを記憶して日々に勤めて放捨せざらんこと是愛国護法の男女諸賢の一大因縁なり。
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