死の底から救って頂く(N・Y女史。日本巡礼記集成)
「私は高知県の田舎に生まれました。家から12キロ余りのところにミニ八十八所があり小学五年生くらいの時おまいりしたことがありました。・・・その後、結婚し南京市で終戦を迎え、一年後にやっと日本に帰り着きましたが33年に主人が病死、中学を先頭に五人の子供を抱え途方にくれました。働くために高知市内へ出てきましたがその年無理がたたって、重度の胆嚢炎となり病院では手当不能と言われました。そのうち心臓まで悪くなり、病院の先生は子供たちに「長くないから好きなものを食べさてあげておいて」と言われたようです。私も病院の天井を見上げながら「もう自分も長くない」と感じていました。
そこ時、ふと頭をよぎったのは子供の頃お参りした近所の八十八ヶ所です。お四国をお参りする夢を果たすことなく死んでいくのかと思い後から後からと涙がとめどなく流れてきました。そして「本四国をお参りする御縁は頂けなかったがせめて御宝号と光明真言を」と思いたち、その日は一睡もせず病院のベッドの上で「南大師遍照金剛」「おんあぼきゃべ・・・」と唱え続けました。翌日の晩もお唱えしましたが先日眠ってないのでいつの間にか眠ってしまっていました。そうすると真夜中と思われる頃、「ジャラン」「ジャラン」と錫杖の音が聞こえます。そしてどこからか「お前はまだ死んではいけない」という声が聞こえた気がしました。びっくりして目が覚めましたが周囲には誰もいません。そんなことがあって二日後先生が「急によくなってきたので近く退院できるかもしれないね」と言ってくれたのです。そしてその日から十日後、本当に退院できました。先生も奇跡的と言ってくださいました。そうだあの声はお大師様だったのだ、とあとで気が付き、すぐにお四国八十八所のお遍路に出ました。以来毎年お四国にお参りに行かせていただいております。これからもお大師様の御恩に報いるべく生きていこうと思っております。」
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