[HRPニュースファイル1428]http://hrp-newsfile.jp/2015/2310/
文/HS政経塾4期生 窪田真人
◆IoTとは何か
昨今よく耳にするIoTという言葉、皆様ご存知でしょうか。
IoTとはInternet of Thingsの略語であり、モノのインターネットと言われているものです。
すなわち、私達の身の回りにあるモノにセンサーや制御機器を組み込んで、これをインターネットに繋いでネットワーク化することを意味します。
例えば自動車に搭載されたセンサーは、位置情報で現在位置を把握するだけではなく速度や進行方向、エンジンの回転数や温度、燃費など様々なデータをモニターしており、その情報をインターネットに繋げ監視する体制を築くことで、事前に故障の予兆を検知することができます。
このようにIoTは既に我々の生活に密接に関わり、存在しているのです。
◆IoTで社会はどう変わるか
それではIoTで社会はどう変わるのでしょうか?特に製造業の分野で大きな変革が起こると言われています。
製品設計、マーケティング、製造、アフターサービスなど、それぞれの工程において情報を集め、その情報を活かした活動を行い、加えてそうした活動のために、 製品データの解析やセキュリティ確保といった業務活動の必要性が生じるため、バリューチェーン(商品がお客様に届くまでの間、どこでどれだけの価値が生み 出されていくか)の在り方が変わります。
さらにはバリューチェーンの最適化が促され、生産性の向上が求められることになります。
その結果、IoTは「新たな産業革命」とまで称され、既存のビジネスモデルを大きく変えることになるのです。
予測として、インターネットに接続される機械やデバイスの数は、2015年で150億台、2020年には500億台を超えると言われており、市場規模は全世界で約365兆円にまで拡大すると言われています。
◆ドイツのIoT戦略
IoTを自らの成長に取り込もうと、各社、各国は現在様々な取り組みを進めています。
特にドイツは官民一体となり、製造業のイノベーション政策として主導しているプロジェクト「Industrie 4.0」を通して、IoTにおける市場獲得を狙っています。
このプロジェクトは、工場を中心にインターネットを通じてあらゆるモノやサービスを連携することで、「ダイナミックセル生産」という生産方式を可能にすることを目指しています。
「ダイナミックセル生産」とは、生産工程の作業管理を行う生産管理システムをインターネットのネットワーク上に構築し、生産に関わるあらゆる情報にリアルタイムにアクセスできる体制を築くことで、最適な生産を行うものです。
具体的には、生産に必要な情報さえ提供すれば、多くのプレイヤーが生産活動に参加でき、顧客の要望に合わせて、製品ごとに異なる仕様、好みのデザインの商品を欲しいときに欲しい数量だけムダ無く作ることが可能になります。
こうした柔軟な生産体制の構築によって、ドイツは自国の製造業の優位性を担保しようとしているのです。
ただ、その実現のためには、工程管理、製造装置における「標準化」が大変重要なキーワードになります。
設計から生産に至るまでの一貫した生産工程を工程ごとに標準化し、求められる仕様に合わせて組み替えができるように対応する必要があり、柔軟で高度に統合された自律的な生産管理が求められます。
また製造装置は標準化プロセスの要となる要素であり、そのもの自体を世界標準とするために仕組みを提供していかなければなりません。
実際にドイツは工程管理、製造装置における「標準化」を進め、IoTにおける自国企業の競争優位性を担保することを目指しています。
◆日本の現状ととるべきIoT戦略
こうしたドイツの動きに対し、日本はIoTに関する対応が後手に回っていると言わざるを得ません。
現状では、総務省がデータ活用による事業化について、ビッグデータのキーワードでIoTに取り組むよう、通信/IT業界へ推奨しているだけです。
その一方で、経済産業省はドイツをはじめとする他国のIoTへの取り組みが、自動車やハイテク、機械といった、日本がグローバルで強みを持つ産業競争力を下げる危険性があると考えています。
実際に、2014年12月に開催された『日本の「稼ぐ力」創出研究会(第8回)』(事務局:経済産業省 経済産業政策局 産業再生課)の説明資料には、その懸念として「我が国のAI・ビッグデータ産業は、グローバル・プレーヤーの一員となっていないのではないか」と記されて います。
では日本はこれからIoTについてどのような手を打っていくべきなのでしょうか。考えられる戦略は以下の3つです。
(1)ドイツをはじめとする他国の標準化を受け入れ、その中でグローバル市場におけるシェア拡大を狙う
(2)日本独自規格を作り、日本+アジアに展開して世界標準を目指す
(3)業界・企業独自の技術を磨き上げて「技術と品質」でグローバル市場をリードする
この中で私が進めるべきだと考える戦略は、(2)と(3)の融合です。
日本の最大の強みは、やはり自動車をはじめとするモノづくりにあるでしょう。
その優位性を担保するためには、一般化した技術については「標準化」を通し、他国を巻き込んだ生産体制を構築していくこと、その一方で、最先端の技術力、品質を生み出し続けることがグローバル市場における競争の源泉となるはずです。
IoTについて今日本がなすべきことは、自国の利益を確保しつつ、アジア、そして世界のリーダーとしての強い方針を打ち出し、日本独自規格を標準化し多くの国を巻き込んでいくこと、そして巨大な新生産体制を築いていくことなのです。
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