日々の恐怖 10月6日 地下室
昔、エレベーターの点検員をしていたときの話です。
駅前にある雑居ビルに先輩と2人で向かった。
とりあえず管理人に挨拶し、各階のドア前に点検中の札貼って点検作業を開始した。
ピット(空洞)内の底面を掃除しようとしてエレベーターを2階に移動させ(箱をどかして空洞内底面に入る作業)扉を開けてびっくり、底面がはるか下にある。
通常なら底面は扉を開けてすぐ下にある。
その雑居ビルは8階建てでエレベーター箱内のボタンは1階から8階まで計8つ、俺はてっきり地下が無いと思い込んでいた。
もちろんエレベーター以外に階段なども無い。
だがその建物は地下2階まであった。
どうも、先輩は俺を驚かせようとしていたみたいで、俺に何も言わなかったと後で聞いた。
エレベーター箱内の操作盤の下には鍵穴が付いて開けられるようになっており、点検する時は点検員しか持っていない鍵で、そこをあけて点検する。
そこには、手動でエレベーターを上げ下げできるスイッチが付いている(安全のため超スロースピードでしか不可)。
本来、ボタンがない地下1階と地下2階に行く方法は、その点検用ボタンを押して行くしかない。
そしてボタンを押して地下2階まで下がって行った。
地下2階は異常にひんやりしていて、地下なので窓などもちろん無し。
文字通り、何も見えない真の暗闇が広がっている。
地上の他のテナントが入って人がたくさんいるフロアとはうってかわり、ライトで照らすと建築コンクリ丸出しの異様な雰囲気だった。
通常はエレベーターを1人が地下1階に上げ、もう1人が地下2階に残り扉を開けピットを掃除するのだが、先輩は勘弁してくれた。
どうせ管理人にわからないし、流石に気味悪すぎてみんなしないらしい。
俺もわずか時間でも、あの空間に取り残されるのは嫌だった。
なぜ地下1階と2階の有効なスペースを整備してテナントに使わないのか。
エレベーターに地下1階と2階のボタンを付けないのか。
先輩が言うには、実は工事途中に事故があって、縁起を担いだビルの経営者が地面から下は封印、階段も埋めてしまったらしい。
取り残されたら脱出は完全に不可能だ。
エレベーターの呼びボタンは回路切ってある、階段無い、携帯は圏外。
そもそも、一般人は地下の存在すら知らないし、ミイラになるまで取り残されるかもしれない。
あんな場所、犯罪に使われたら必ず迷宮入りになると思う。
都内の繁華街の駅前の何の変哲もない雑居ビルに、賑わった地上と裏腹にこんな誰も知らない地下世界があったことを思い出すと、今でもゾッとする。
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