日々の恐怖 10月29日 説教
大昔、付き合ってた彼女のお兄さんの話です。
彼女と付き合うまで知らなかったんだが、彼女のお兄さんは中学~高2までK市では有名な暴走族だった。
が、高2の夏から、突然暴走族をやめて品行方正になった。
「 なにがあったの?」
と彼女に聞いても、にやにやしながら、
「 兄貴に聞いてみなよ。」
と教えてくれない。
ある日、彼女の家に遊びに行ったらお兄さんがいたので、思い切って聞いてみた。
「 なんでツッパリをやめたかって?
うーん、おまえなら教えてもいいか・・・。
俺さ、高2になってから学校には全然行かないで、毎日ゾッキー(注1)やってたんだよ。
本気でヤクザになろうと思ってたからさ、鑑別所・少年院上等ってな感じで。
で、夏休みのある日、夜中の3時ぐらいに家に帰ってきたら、居間に誰かいるんだよ。
おふくろかと思ってチラッと見たらよ、死んだオヤジなんだよ。」
彼女のお父さんは、彼女が小学校低学年、お兄さんが中学の時に亡くなっている。
「 でさ、そん時、俺はトップク(注2)着てたんだけどさ、『親父?』と思った瞬間、金縛りにあっちゃったんだよ。
声出したくても声出ないし、逃げたくても指一本動かないんだ。
親父は居間の食卓に座ってさ、だま~ってタバコ吸ってんだよ。
で、ゆっくりとこっち振り向いてさ。
たった一言。
『 いい加減にしろ。』
それだけ。
それだけ言うと、親父はタバコの煙と一緒に消えてった。
俺、金縛りが解けたと同時に尻もちついちゃって、そのまま朝を迎えたんだ。
朝、お袋が起きてきて、
『 あんた、そんなところで何やってんの?』
って言うから、
『 今まで心配かけてきてごめん。
もう、族やめる。』
って、その場で宣言したよ。
次の日、仲間のところ行って、
『 親父の霊に説教されたから、やめる。』
って言ったら、他のヤツらにすんげー大笑いされたけどな。
でも、マジで怖かったんだ。
今思い出しても、鳥肌が立つくらい怖かった。」
その話を半信半疑で聞いたのち彼女の部屋に入ると、彼女がこんな話をしてきた。
「 兄貴がお父さんのオバケ見る前に、私、お仏壇で毎日お願いしてたんだよね。
『お兄ちゃんが暴走族をやめますように。真面目になりますように』って。
その頃私、いじめられててさぁ。
原因は兄貴。
K市のヤンキーなら誰でも知ってるような、大不良の妹だからって。
もう、悲しくて悲しくて、これも兄貴のせいだ、いや、兄貴を育てたお父さんのせいだって恨んでたの。
だから、兄貴の話聞いた時、ざまぁみろって思った。」
結局、その2年後くらいに俺は彼女と別れて、彼女は違う男と結婚した。
でも別れたばかりの頃は、彼女の親父さんが現れるんじゃないかと、夜中はすごく怖かったっけなぁ。
(注1、ゾッキー=暴走族構成員)
(注2、トップク=特攻服)
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