日々の恐怖 10月21日 額縁
城東区で仕事していた時だけど、飲食店を経営するにあたって結構お得な物件を見つけた。
2階は普通の大家さんが住んでて、1階がテナントなお店。
芸能人Tの焼き肉屋から近いかな。
まぁ、食べていくには困らない経営していたんだけど、あるとき車の事故起こして、修理するために店から3分位離れた修理工場に持って行った。
近所付き合いする方ではなかったんだが、向こうはこちらを知っていたらしく、修理の人に、
「 あそこのテナントですね、大変でしょう。」
と言われた。
“ へっ?”
と思って、
「 何かあったんですか?」
と聞いたら、
「 知らないなら、それに越したことはありませんよ。」
とはぐらかされた。
あまりに気になって、しつこく食い下がると教えてくれたんだが、過去そこのテナントは、3回経営者が変わっているらしい。
で、2人そのテナント内で首つり自殺してて、1人はノイローゼになって行方不明らしいとか。
にわかに信じられずに、そんな馬鹿な!と思ったが、不況だったんでまぁありえるかなと思った。
ちなみに、店で自殺はあれだが、自殺するような人間に俺が祟れる訳ない的思考です。
けど、お店にいてもずっと気になって、近くの喫茶店とかアルバイトに聞いてみたら、なんか嫌な話が続々出てきた。
一応、
・テナント借りている家は名家の類いだけど、4代位続けて男は30までに死んでいる。
・今の家主さんの子供は男3人娘一人だけど、男は全員30までに死んでいる。
・旦那も30前に病死。
・首つり自殺一人有り。
また、うちの店の3件位離れたバーに、霊感がある人が誘われた時に、
「 こんな怖いとこでは飲めない。」
と帰っていったとか・・・。
自分の店の周辺は、空襲で死んだ人を取りあえず置いておく場所に使われていたとか。
そういえば、霊で有名な深江橋の近くだし、なんかあるのかなぁと思ったけど、商売順調で関係ないや、だった。
忙しい時は店に泊まってたけど、霊とか微塵も感じられなかったし。
で、平和な日々が続くある日、それは起こった。
その日、オープン前に店の前を掃除していたら、パソコンのプリンターを買った大家さん(未亡人30前半?)が、プリンターを休憩挟みながら必死で2階の家に持って行こうとしていた。
しんどそうなので、
「 自分で良ければ家まで運びましょうか?」
と言ったら、
「 迷惑かけますのでいいです。」
と言われたけど、微妙な下心があったので、半ば強引に、
「 お手伝いしますよ。」
と、家まで運ぶことにした。
2階まで運んで、
「 ここでいいです、ありがとうございました。」
とお礼されたけど、パソコンに詳しかったんで、
「 接続しますよ。」
と玄関で話していたら、その家のおばあちゃんも出てきて、少々のやり取りの後、お願いされることになった。
で、無事接続も完了して、お礼にコーヒーを用意してくれることになって、未亡人とおばあちゃんが出て行ったあとに、尿意を催してトイレに行きたくなった。
お店でしようかなと思って、1回店に戻ろうとして廊下を通ると、半分障子が開いている部屋が目に入った。
なんとなく部屋を障子ごしに覗いたら仏壇があり、(今思うと、仏壇かどうかはわからない)部屋の上のほうに、物故者の写真が額縁入りで大量に飾られていた。
結構壮観な並びで、さすが早死に名士の家計だなと感心して、通り過ぎようとして妙な違和感を感じた。
1個だけ写真がない額縁があったのだ。
こういう時に、他と異質な物を注視してしまうのは人の常であろう。
ついついその額縁を見てしまい、自分は心の底から恐怖した。
朱色の墨で、自分の名前と生年月日が書いてあったのだ。
周りを慌てて見渡すと、台所でなにかしゃべっている声が聞こえる。
黙ってさっきの部屋に戻り、急な仕事の用を思い出したことを告げて2階の家を脱出した。
それで、店に戻って身の回りのものを大急ぎでカバンに詰め、あらゆることを投げ出してとにかく逃げた。
FC店だったために本部の方を通して、一切その大家さんに関わらずに権利関係の処理できたのが、不幸中の幸いだった。
ホテル暮らしを転々として実家にも連絡を取らなかったけど、後で聞いたところによると、最初のうちは頻繁に実家に連絡があったらしい。
今は東京に住んでいるけど、未だに怖くて大阪には帰れないし、住民票も移していない。
地名をある程度詳しく話したことに後悔し、途中、話を続けるか迷った。
昔のことだからもう平気と軽く話し始めたけど、またビクビクする日が始まる。
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