日々の恐怖 10月15日 すいか
昔、まだ自分の祖母が存命だった頃の話です。
当時ばあちゃんは身体が弱っていて、うちの近所に住んでる伯母宅でほぼ寝たきりだった。
自分はまだ小学2年か3年くらいの頃で、時々見舞いに行っては、
「 ばあちゃん長生きしてな。」
って言ってたんだけど、いつも、
「 ありがとう、ありがとう。」
って泣くんだ。
暑い夏で、クーラーなんて無かったから窓も玄関も網戸にしてて、ばあちゃん用の扇風機は、ゆるい風を送りながらいつも首を振っていた。
伯母宅は玄関を上がるとすぐ前に階段があって、台所が隣接している。
だから誰か入ってきたらすぐにわかるようになっている。
その日、伯母が昼ごはんを用意していると、誰かが入って来て階段をとんとんと上がって行った様な気がしたそうだ。
“ 声も掛けないで入ってくるなんて、一体誰だ?”
と思い、慌てて階段を覗きに行ったが、もう誰もいない。
階段を上がって、すぐの部屋にはばあちゃんが寝ている。
なんだか心配になって、伯母はばあちゃんの様子を見に行ったんだそうだ。
二階にはいつもと変わらずにばあちゃんが寝ていて、他には誰もいなかった。
「 誰か来なかった?」
と伯母が訊くと、ばあちゃんがなんだか嬉しそうに、
「 じいちゃんが来たよ。」
と言ったそうだ。
祖父は自分が産まれるよりもずっと前に亡くなっているので、もう鬼籍に入ってから随分と経つ。
伯母はさっきの気配を思って、少しぞっとしたらしい。
そして、ばあちゃんは続けた。
「 お前はまだ来ちゃいけないって言うんだよ。
見舞いにスイカを持ってきてくれたんだよ。
ほら、そこにあるだろう?」
けれど、そこには何もない。
ばあちゃんは、さらに続けた。
「 なんでスイカなんだろうねえ、じいちゃんの好きなものじゃないか。」
そう言って笑った。
伯母は急いでスイカを買いに走ったらしい。
かなり食が細くなっていたばあちゃんだったんだが、このスイカは良く食べてくれたと伯母は言っていた。
そして驚いたことに、その日からばあちゃんは見る見る元気になって、外に散歩が出来るくらいにまで回復した。
その後、じいちゃんの仏前には、夏の間だけだけれど、毎日スイカが供えられるようになった。
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