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日々の恐怖 10月25日 ハロウィンと泣き女

2014-10-25 18:11:28 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 10月25日 ハロウィンと泣き女


 北欧一帯の、いわゆるケルトのサウィン祭なるものをご存知でしょうか。
北欧にて11月始め、収穫祭であり厳しい冬と新しい年の始まりを謳い、死者の国や妖精郷といった異界への扉が開かれるケルトの日です。
要はハロウィンの源流となる収穫祭のことです。
 このサウィン祭は、10/30の夜から11/1の朝までというのが一般的ですが、11月に入り1日に一番近い満月の日に行うという説もあります。
 日本のお盆と同じように先祖の霊が帰ってくると信じられ、お盆と違うのは前述の通り異界への扉が開くため、先祖の霊だけではなく悪霊や精霊、妖精も彷徨いだすというところです。
そんな異郷と現世の境界が曖昧になる日の、ある村でのお話です。


 その村には変わり者の男がいたそうで、日がな一日、本を読んだり怪しげな道具や薬を作ってすごし、時折思い出したように畑の世話をしていたそうです。
ドルイドでもなく、神に仕える司祭でもないこの男、変わり者ではあるものの狭量ではなく、村人に知識を分け便利な道具を提供することで糊口をしのいでおりました。
 そしてあるサウィン祭の夜です。
1年の終わりと始まりを隔てる最も大事な夜にやはり男は祭りに参加することなく、家にこもっておりました。
 取り寄せた書物を一心不乱で読みふけり、腹の虫が鳴ったのに気づいたのはもうしばらくすれば夜が明ける頃合いです。
祭りの日であることを思い出した男は、残り物でもいただこうと、ちょっと散歩する程度の気分で暖炉に火を入れたまま、冷え込みが厳しくなった夜道を歩き広場へと向かいました。
 家々は灯りが消され、寒さの厳しくなった村の夜は足元もよく見えず、遠く広場からの騒ぎの声と一層暖かそうに見える魔除けの焚き火を目指して変わり者は進みます。
首尾よく祭りの豪勢な食事を腹に詰め、もう終わりだからと村人に引き止められて、夜明けまでを共にします。
 魔除けの焚き火の消火を見届けた男はそれ以上、何かを言いつけられてはたまらないとばかりに、隠れて家路につきました。
 暖炉に暖められた部屋に入ると一息つき、再び読書に励もうといつもの椅子に腰を落ち着け、書を開きます。
ところが、どうにも集中できず、いつもなら絶対に気にならないはずの細かいことにすぐ気が散ってしまいます。
 根を詰め、寝ていないところに腹も満たしたので仕方ないかと、男は読書を諦め一眠りするかと立ち上がりました。
ふと視線を出入口のドアへ向けると、いつの間に入ってきたのか少女が一人、顔を俯けて立っていました。
 男は驚きのあまり腰を抜かしてへたり込んでしまいますが、よく見ればその少女、服も顔も土埃で汚れています。
祭りから帰る途中に転んでしまい、近くにあった家に来たと考えた男は、己の醜態に照れつつ少女に詫びを入れ、手ぬぐいなどの用意をしました。
 しかし、少女は扉の前から動かないままです。
それで、水に浸した手ぬぐいを渡そうと男は彼女に近づきます。

「 これを使うといい。」

そう言うと少女はようやく顔を上げました。
 その顔を見た男は再び驚きに硬直しました。
燃えるような赤い眼です。
少女はくしゃっと顔を歪めると、想像を絶する大声で泣き喚きました。
 突然、落雷のごとく響いてきた凄まじい泣き声に、祭りを無事に終えてくつろいでいた村人たちは飛び上がって、急ぎ広場に集まりました。

「 泣き女だ、泣き女が出たぞ!」

皆、不安そうな顔で辺りを見回し、隣人と小さな声で会話をしていました。
 やがてこの場にあの変わり者だけがいないことに気がつくと、村の力自慢や猟師である男たち数名が、変わり者の家へと様子を見に行きました。
扉を開けると、そこには目を見開いて死んでいる変わり者の男が横たわっていました。


 サウィン祭にはひとつ、行うべきしきたりがあります。
それは、祭りの開始と同時に家の照明や暖炉の火を落として眠りにつかせ、静けさを呼び込みます。
そして祭りの終わりに魔除けの焚き火から燃えさしを貰い、それを火種として再び蝋燭や暖炉に火を与えます。
 その灯りと暖気が家を満たすことで、外の悪霊や妖精から、ひいてはこれから長く続く厳しい冬から住人を護る結界を作るものでした。
それを怠った変わり者の男は、泣き女に死の国へと誘われることとなってしまいました。


 泣き女はバンシー(banshee)と言ったほうが通りが良いでしょうか。
バンシーは、アイルランドおよびスコットランドに伝わる女の妖精であり、家人の死を予告すると言われています。
 バンシーの泣き声が聞こえた家では近いうちに死者が出るとされますが、どの家にでも現れるというわけではなく、純粋なケルトやゲール系の家族のもとにしか来ないとも言われています。
 複数のバンシーが泣いた場合は、死者は勇敢な人物か聖なる人物であった証とされます。
また、アイルランドやスコットランドの旧家には、その家固有のバンシーがいて、たとえ故郷を遠く離れて暮らしている者にも、故郷にいる家族の死を伝えます。
 アイルランド地方に伝わる一説では、バンシーは長い黒髪で緑色の服に灰色のマントを着た女性の姿をしているとされますが、泣き声が聞こえる時は、その姿は見えないと言います。
その泣き声は、人間以外も含めてありとあらゆる叫び声を合わせたような凄まじいもので、どんなに熟睡している者でも飛び起きるほどです。
また、バンシーの目はこれから死ぬ者のために泣くので、燃えるような赤色をしているとも言われています。











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