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日々の恐怖 10月26日 特殊法人の憂鬱

2014-10-26 15:01:47 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 10月26日 特殊法人の憂鬱


 20年前の話なので、もう特定されることもなくなっただろうと思うので話をさせて貰う。
 当時、俺は某特殊法人に就職していた。
俺が就職した時、すぐに本部ビルの建て替えが始まったんだが、新本部ビル建設工事中に、遺構やら遺跡が出てきてしまった。
 本部のあった土地は都内でも歴史が古く、そういうものが出てきてもおかしくはない。
問題は、考古学調査のため工事中断となってしまうことだった。
それで、上層部判断で証拠隠滅してしまった。
遺構やら遺跡やらを全部埋め立てて、教育委員会には一切知らせることなく工事を続行した。
 総務部の俺は、

“ 嫌なことを知っちゃったな。”

と思いながらも口を閉じているしかなかった。

 新本部ビル落成、引っ越しが済んでから、1ヶ月も経たないうちに変な問題が次々と発生した。
 ビルは夜11時で完全ロックアウトされ、入退室は出来なくなるのだが、地下室への階段ドアが週に何度か警報を鳴らして、その度に警備会社から連絡が来る。
 地下一階は女子更衣室、地下二階は資料倉庫だったのだが、女子更衣室の蛍光灯だけが異常に早く切れたり、エアコンの調節が故障したり、スピーカーが異音を拾う。
 資料倉庫の湿度が異常に高く、床が水浸しになる。
地下二階の水浸しの件については、新築ビルだからコンクリの水分が抜けてないんだろうという話だったが、とにかく水の量が半端じゃなくって、業務用除湿器を設置しても資料は水分で黴びていった。
 女子更衣室の電子機器の故障についても、水分のせいだろうってことだったが、除湿器を設置しても故障頻発は収まらなかった。
 そして、新本部ビルに引っ越して数ヶ月後から、幽霊話が頻発するようになった。
 まず、女子更衣室で、ロッカーに取り付けられた鏡越しに女を見る職員が頻発した。
 地下資料倉庫は、昼夜問わず、

「 女の呻き声が聞えた。」

と言って腰を抜かす職員が頻発した。
 フロア最後の職員が退室時には、エレベータもロックされるため階段を使用するのだが、 この階段を降りている最中に後ろから足音がする。

“ 他のフロアの職員かな?”

とミラー加工された窓ガラスを見ると、自分のすぐ後ろに女が映し出される。
驚いて階段を駆け下りようとして、足を捻ったり、転んで怪我をする職員が毎週一人は出た。

 そして、ついには俺も見てしまった。
総務部には、22:30に各フロアを見回ってから22:45に最終退出する遅番があって、俺がその遅番をやって、ビルを出ようとする瞬間に、エレベーターホールで女の声がした。
ちょっと待って、みたいなニュアンスの、

「 あ~。」

って言う声だ。

“ え・・・?
女子更衣室も施錠したし、誰か残ってたのかな・・・?”

と、再度エレベーターホールに入って、

「 誰かいますか?
返事してください、閉めますよ!」

と声をかけたら、石貼りの壁から青みがかった灰色の細い腕がプラーンと垂れ下がって来て、おいでおいでと手招きされた。
俺は生まれて初めて腰を抜かして、四つん這いになりながらビルの外に出た。

 次の日の朝、課長にこのことを話したら、そのまま部長へ。
そして、ついに秘書室長経由で役員や理事長にまで話が通った。
今までに何件か幽霊を見たって話はあったが、総務部の人間にはなかった。
俺が初めての遭遇者だった。
 お祓いをやることになったんだが、最初は地鎮祭にも来て貰った地元の神社の神主に頼んだ。
ところが、神主に、

「 そういうお祓いはしない。」

って頑として断られた。
 次に近所のお寺に頼んだ。
一度は引き受けてくれたんだが、翌日には断りの電話があった。
総務部案件だったんで、俺が付近十数件の神社仏閣にお願いをしたんだが、みんな後日になって断ってくる。
気持ち悪いのが、みんな断る理由を聞いても教えてくれないことだった。
 結局、役員の地元の東北の神様と呼ばれる拝み屋に依頼をした。
粛々と儀式が終わって言われたのは、

・埋めてはいけないものの上に、このビルが建っている。
・やれることは全てやったが、これでおさまったとは思えない。
・屋上に社を建てて、鎮魂するしかない。
・それでも、完全にはおさめることは出来ないだろうが、今よりはマシになる。

 遺跡や遺構を埋め立てたのを知っていたのは、所内でも総務部の中でも数人だけだった。
あとは工事関係者だけ。
 ちなみに、前社屋は昭和30年代に建てた地下室ナシの地上4階建てだったから、なにも出てこなかったらしい。
新社屋は地下2階、地上12階がマズかったんだろう。
早速、社を建てたりなんだりして、騒ぎはおさまったように見えた。


 ところが、次は会社自体に影響が現れた。
新本部ビル落成の一年後に事業規模は一割減、二年後に三割減、三年後には三分の一まで縮小した。
○○省や○○庁からの天下り役員も来てくれなくなり、リストラが決行されて、俺はこれに乗っかって早期退職した。
 その後、残った総務部の同僚に聞くと、あいつだけはないと言われていた超嫌われ者部長が異例の大出世で理事長に就任した。
 就任後、数ヶ月で理事長の娘が精神病で入院、奥方も精神病で入院した。
生え抜きの役員たちの家族(ほとんどが、奥さんか娘)にも精神病患者が続出した。
これらの情報は、健康保険組合から、

「 精神病患者が続出してるが、この割合はおかしすぎる、調査しろ。」

と言われて判明した。
健保組合からの電話を受けた同僚によると、この従業員規模の企業ではありえない、異常な精神病入院患者比率だと指摘されたようだ。
 まだこの特殊法人は残っているし、建物もある。
同僚はみんな辞めたから、もう中はどうなっているか俺にはわからない。










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