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日々の恐怖 5月26日 おばちゃん

2015-05-26 21:02:18 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 5月26日 おばちゃん


 久しぶりに年の離れた従兄弟に会えたので、こんなこともあったよなーって話で盛り上がったんだけど、そんな思い出に1つだけ、懐かしくも不思議な話があった。
 もう10年以上も前の話だ。
当時小学生だった自分は、毎年夏休みになると従兄弟の住む長野県へ遊びに来ていた。
地元では見られない規模の花火大会、見たこともないような変な虫や生き物、よくわからない祭とか、従兄弟には色々な所に連れて行ってもらった。
 そんなある年、小学生の自分は従兄弟と2人でハイキングに行くことになった。
詳しい場所は伏せるけど、ある山から入って、ある高原に抜けるルートだ。
ハイキングとは言うものの、ただのガチ山登りで小学生にはきつかったのを覚えている。
 最初の1時間くらいは本当に楽しかった。
登山ルート沿いに沢があって、確か生まれて初めて山椒魚を触った。
大学生の従兄弟は物知りで生えてるコケがいかに珍しいかとか、この辺りにはどんな動物がいるとかいろいろ教えてくれた。
 しかし小学生の自分に山登りは、ただひたすらにキツク、自然というものにに飽き始めていた。
しまいには持ってきた携帯ゲーム機をいじりながら歩いたりしていた。
 そんなこんなで2時間ほど過ぎて、山の中腹で食事を終わらせ休憩し始めたとたんに、ガスなんだか霧なんだかで周辺がもやってきた。
 ルートがわからなくなると洒落にならないと、先を急ぐ準備をしていると、目の前の沢から、モンペを着てほっかむりのおばちゃん2人が段差をよじ登ってきた。
 挨拶をするでもなく山道を先へ進み出すおばちゃん2人。
従兄弟と自分は、

「 地元の人かな?」
「 山菜とか採れるんじゃない?」

なんて小声で話しながら、同じ道を進み始めた。
 おばちゃんたちのシルエットを追う形で霞の中しばらく歩いていたが、おばちゃんたちは足が速く、どんどん先に進み視界から消えた。
 それから時間も経たず、高原側からいかにも山が好きそうなお兄さんたちが下りてきて、

「 こんにちわ!」
「 ガスがきついから気をつけて。」
「 がんばれ。」

とか挨拶をしてくれて、自分も一人前に扱われたみたいでうれしくて、振り向いて降りていく集団に手を振った時に気づいた。

「 あのさァ、後ろからも似た格好のおばちゃんたちが登ってくるんだけど・・・。」

 靄がかかっているので顔立ちとかがはっきり見えるわけではないんだけれど、うねうねと曲がる山道、手を振り返してくれる兄さん達とすれ違うように、腰の曲がったシルエットが見える。
 従兄弟は、

「 うーん・・・・。」

と首をかしげ

「 あのさ・・・・。」

と切り出した。

「 さっきの兄さんたちが、おばちゃんたちに挨拶してたの聞こえた?」

言われてみれば、振り向いて手を振った時におばちゃんたちとすれ違ってるはずなのに、先ほどのような挨拶を交わす声は聞こえてこなかった。
 従兄弟は小声で続けた。

「 おばちゃんたち、何も持ってないんだよね。
普通道具もなしに山にはいるかな?
怖がらせちゃいけないと思って言えなかったんだけど・・・。
地元の人だとして、手ぶらで山菜取りにきて、麓に下りず、一言も話さずに山登るなんて普通じゃないと思うんだよね。」

「 おばけ?」

と従兄弟に聞いたと思う。

「 まさか~。
でも気味悪いし、先に行かせちゃおうか。」

とか言い出して、適当な石に座りこむとタバコをふかし始めた。
 自分も疲れていたので座り込み、後ろからやってくるおばちゃんたちが通り過ぎるのをぼ~っと眺めながら、

“ 田舎や畑で見かけるような、ただのおばちゃんだよなぁ・・・。”

なんて考えていると、あっけないくらい何事もなく、おばちゃんたちは目の前を通り過ぎていった。
 おばちゃんたちをやり過ごした後は靄も晴れて、目的の高原に無事たどり着けた。
普通に地元のおばちゃんたちだったのか、お化けの類だったのかはわからないけど、山の空気もあって、自分には忘れ難い、なんとも言えない強烈な夏休みの思い出になった。

 久しぶりに従兄弟と話せたんだけど、さすがに向こうも覚えていた。
当時は完全にお化けだと思っていたそうだ。
タヌキやキツネはタバコが嫌いという話を誰かから聞いた事があり、試しに吸ってみたと言っていた。












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