日々の恐怖 5月9日 痣
これは母方の婆ちゃんから聞いた、婆ちゃんが幼少の頃に体験したという話です。
婆ちゃんは3人兄弟の末っ子で、兄と姉がいた。
兄と婆ちゃんは元気そのものだったが、姉は生まれつき身体が弱くて毎日病床に伏しており、衰弱の為か声も出にくい為に用があると家族の者を鈴を鳴らして呼んでいた。
しかし両親は共働きで日中は家におらず、姉の面倒は妹の婆ちゃんがしていた。
看病と言っても幼少の為に出来る事は大した事がなく、水や食事を運ぶ程度の事だったらしい。
姉の病状は回復の兆しも見えずに痩せ細り目は窪み、それはまるで死神のように見えたそうだ。
そんなある日の事だった。
姉が震えるか細い声で、病床から兄に向かって言った。
「 お水、ちょうだい・・・。」
それに対して兄は顔を顰めて
「 やーだよ、ボクはこれから遊びに行くんだから。」
と言い捨てて、さっさと家を飛び出してしまったらしい。
姉はその言葉がショックだったんであろう。
顔を歪めて憎々しげにその姿を目で追っていたらしい。
そして今度は婆ちゃんに顔を向けて、
「 ○○ちゃん、お水、ちょうだい・・・。」
婆ちゃんは、その歪んだ姉の表情に突然恐怖心が込み上げてきたらしく
「 わ、わたしも遊びに行ってこよー。」
と逃げ出そうとしたその時、恐ろしい力で腕を掴まれて、
「 死んだら、恨んでやる。」
と言われた。
婆ちゃんは泣きながら、
「 嫌だーっ!」
と腕を振り解いて、外へ走り逃げてしまった。
それから婆ちゃんは姉に近づく事なく過ごし、数週間後に姉は他界してしまった。
それから数日後の婆ちゃんが部屋に1人でいた時の事だった。
チリン・チリンと何処からか鈴の音が聞こえてきた。
婆ちゃんはビクッとしながらもおそるおそる振り返ると、恨みの籠もった目でこちらを見る姉が立っていたそうだ。
それからというもの、婆ちゃんが1人きりの時に姿を現しては、姉は恨みの視線を送り続けてきた。
しばらくの間は、婆ちゃんも1人で耐えていた。
それというのも、姉は自分が水をあげなかった事が原因で死んでしまったと後悔していたからだ。
しかしあまりの恐怖に根を上げた婆ちゃんは親に泣きつき、水をあげなかった懺悔を悔いてすべてを話した。
それを聞いた母親は、
「 あなたのした事は酷い事だけれど、それが原因でお姉ちゃんは天国へ行った訳じゃないのよ。
お母さんがお姉ちゃんに話してあげる。」
と、抱き締めてくれたらしい。
その夜、婆ちゃんを部屋に1人した母親は隣の部屋でじっと姉が現れるのを待っていた。
その時、母親にも鈴の音が聞こえたらしい。
婆ちゃんの悲鳴と共に部屋へ入り、
「 ○○ちゃん(姉)、もう○○(婆ちゃん)の事を許してあげて。
決して○○ちゃんの事が憎くて水を渡さなかった訳じゃないのよ。
好きだけど、怖くなっちゃったんだって。
それも全部○○ちゃんを置いて仕事していたお母さんが悪いの。
だからこれからは、私のところへ出てらっしゃい。」
そう言ったらしい。
それからというもの、姉は出てこなくなった。
婆ちゃんも姉が許してくれたんだと思い、私に話を聞かせてくれたんだと思う。
そんな婆ちゃんが1年前、心筋梗塞で亡くなった。
心よりご冥福をお祈りする。
と共に、私しか気づいていないかもしれない親族にもしていない話を追記する。
婆ちゃんが亡くなったのは、婆ちゃんから聞いていた姉の命日と同日だった。
そして亡くなった婆ちゃんの腕に、手形らしき痣があった。
何故、今頃に・・・ 。
それは婆ちゃんが亡くなった今、知りようもない謎である。
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