日々の恐怖 1月6日 追憶(1)
彼女には、不思議な記憶があるという。
それは幼稚園の頃のことだ。
彼女が通っていた幼稚園には、園庭の隅に大きなナツメの木があった。
毎年夏になるとたくさんの実をつけ、先生に取ってもらうのが楽しみだったという。
ある冬の日、帰りのバスに乗るまでの三十分の自由時間に、彼女はそのナツメの木を見上げていた。
ナツメの木は、落ちた葉に代わり梢にスズメの群れを休ませ、その賑やかなさえずりでまるで楽器のようだった。
「 あら、懐かしい。
この木まだあったのね・・・・・。」
ふと聞こえてきたそんな声に、彼女は見上げていた視線を戻し、そして違和感に首を傾げながら辺りを見回した。
そこは確かに彼女の通う幼稚園なのだが、所々が違う部分があった。
園舎の色がいつもより鮮明だった。
遊具も知らないものがある。
木登りをして遊ぶ桜の木が、なんだかいつもより大きい気がする。
ナツメの木の向こうで園庭の周りをぐるりと囲っているフェンスは、さっきまではなかったはずだ。
そして何より、つい今しがたまで園庭で騒がしくバスを待っていた友達が、誰もいなかった。
いや、園庭ではたくさんの子供達が遊んでいるのだが、その中に見知った顔を見つけることはできなかったのだ。
突然のことにうろたえ泣きそうになっていると、先ほどの独り言の主と思しき女性が、
「 どうしたの?」
と声をかけてくれた。
彼女の母親と同じか少し若いくらいで、フェンスの外側の道路から彼女を見つめていた。
「 ここ、どこ?」
「 え、あなたの幼稚園じゃないの?」
「 そうなんだけど、違うもん。」
女性は困ったように頬に手を当て、小首を傾げた。
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