日々の恐怖 1月18日 山の神様(1)
彼は若い時から登山が趣味で、日本各地の山々を標高の高低に関わらずあちこち登り歩いていた。
当然いくども危ない目にはあったらしいが、その中でも、
「 これはとびきりだ!」
と彼は少しだけもったいぶった。
とある、北のほうの山に登った時のことだ。
険しい山ではなかったので、日帰りのつもりで大した装備はしていなかった。
しかし舐めていたつもりはなかったのだが、下山途中で足を滑らせて痛めてしまい、動けなくなったという。
あたりは夕方の気配が立ち始め、気温もどんどん下がっていく。
足の痛みはいや増し、座っているだけでも体力は削られていった。
あたりが薄闇に覆われる頃、何かが彼の元に近づくような、枯葉を踏む足音が聞こえて来た。
” この上に野生動物か・・・・・。”
彼は近づいてくる何かを刺激しないよう、目を瞑り息を潜めた。
足音は彼の目の前で止まった。
舐め回すような視線を感じる。
しかし不思議なことに、獣の吐息も匂いも感じなかった。
恐る恐る目を開けて、彼は仰天した。
目の前にいたのは、十にも満たないような少女だったのだ。
おかっぱに赤い着物という、時代と場所にそぐわない格好ではあったが、それは明らかに人間に見えた。
声も出ない彼を無視し、彼女はジロジロと無遠慮に彼を検分していた。
そしてしばらくすると、ため息をついて首を横に振った。
「 こいつはだめだ・・・。」
そう言うと彼女は、薄闇に溶けていった。
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