日々の恐怖 1月22日 山の神様(2)
彼は、
” そうか・・、俺はもうだめなのか・・・。”
と絶望状態になった。
すると、直後に彼女が再び現れた。
手には、あちこちが欠けた湯呑みを持っている。
それを、彼の方にグッと押しやった。
” 飲めということか・・・・。”
彼が湯飲みを受け取ると、薄闇の中でも、それが薄黄色の透明な液体だということがわかった。
独特の香りがする。
なんだかよくわからない者からもらったなんだかよくわからない物だが、喉がカラカラだった彼にはありがたかった。
色も匂いも全く気にならず、一気に流し込んだという。
まさに甘露ともいうべき味が、喉を伝い落ちていった。
礼を言おうと顔を上げると、そこにはもう少女の姿はなく、持っていたはずの湯飲みも、いつの間にか消えていた。
不思議なことに、しばらくすると体力が回復してくるのがわかった。
足の痛みも和らぎ、これなら下山できそうだと、彼は慌てて立ち上がった。
そして様々な疑問はさておき、山を降りたのだという。
次の日、足の痛みのため病院に行くと、脛にヒビが入っていた。
医者から、こんな状態でよく歩けたなと呆れられたそうだ。
「 あの時の怪我の回復は、俺の中での最短記録だよ。
きっと、山の神様が助けてくれたんだろうな。」
彼は笑ってそう言った。
不思議な話に訊きたいことは多々あったが、私が一番気になったのは、少女が彼に渡したという飲み物についてだ。
色と香りの話を聞くと、
” まるでそれは・・・・・。”
と、思い当たるものがあったのだ。
私の考えていることがわかったのだろう、彼はみなまで言うなと苦笑した。
しかし、
「 いやでもあの時、団子を出されたんじゃなくて、本当に良かった。
あの状況じゃ、きっと食っちまってただろうからな。」
と、自分から言って、また笑った。
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