日々の恐怖 1月12日 ねこ(1)
彼女のもうすぐ五歳になる息子は、ようやく喋れるようになった二歳前くらいから、自宅の前の側溝に、
「 ねこちゃん・・・。」
と話しかけていたそうだ。
しかし、母親である知人には何も見えない。
「 ねこちゃん、何してるの?」
「 抱っこしてあげようか?」
「 葉っぱのご飯あげるね、どうぞ・・・。」
何もないところに甲斐甲斐しくそう話しかける息子に、知人は初めは驚いていたものの、やがて気にしなくなった。
子供によくあるごっこ遊びだと思ったのだ。
ねこちゃんとやらにかけている優しげな言葉も、全て周囲の大人が息子に普段かけているのと同じだった。
成長すればじきおさまるだろう、それくらいに考えていた。
しかし、少し気になることもあった。
息子がねこと遊ぶ側溝は道路に面していて、車通りは少ないとはいえやはり少々危ないのだ。
小さいうちは、息子は知人と手をつないだ状態で猫に話しかけていたが、大きくなると自分であちこち行きたがり、おっかなびっくり側溝に降りようとしたり、不安定な格好で雑草を取ろうとする。
そんな時にたまたま車が通ったりすると、こちらも怖いし運転手も驚くだろう。
ねこと遊ぶのをやめるように言っても、息子は、
「 ダメ! まだご飯食べてないんだもん。」
などと言って聞かない。
そこで彼女はついに言った。
「 じゃあもう、そのねこちゃんうちに連れてきなさい。
お庭で遊んだりご飯あげたりするんなら、危なくないんだから。」
すると、息子の顔が、
「 いいの?!」
とパッと輝いた。
「 ねこちゃん、前におうちに来たいって言ってたんだ。」
その言葉に、一瞬、
” しまったかな・・・・?”
と思ったが、もう遅い。
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