日々の恐怖 8月13日 ゆっくりと歩く女の人(2)
しばらくして、祖父母ともに相次いで死に、俺とオカンは介護から解放された。
正直、祖父母が死んだ時、俺はほっとした。
やっと死んでくれた。
もう夜中にトイレにつれていけと喚く人はいなくなったんだ。
その癖、わざと目のまでうんこもらして、お前のせいだと、さっさと処理しろと喚く人は消えたんだ、
と嬉しくて泣いてしまった。
後ろめたさから、その後俺は祖父母のことについて話を一切しなかった。
オカンも同じような感じだったから、きっと同じように思っていたんだろう。
俺は逃げるように実家から出て、一人暮らしをはじめた。
一周忌・三回忌・七回忌、すべて理由をつけて拒否した。
死んだことを喜ぶ人間が法事にでちゃいけない気がしたからだ。
先日、祖父母の十三回忌が行われた。
嫁さんが一度くらい顔だしてあげなよ、というのではじめて法事に出席した。
その時初めてオカンと2人で祖父母について語り合った。
お互いつらかったね、でも頑張ったね、と、泣きながら語り合った。
そんな中、母が、
「 あまりにもつらすぎて、頭おかしくなって、夜、ベランダで洗濯物干してたら、
隣を女の人が通る幻覚までみてたわよ、私。
2階なのにね。
しかもしょっちゅう見えた、その人。
ホント頭おかしかったわ、あの頃は。」
と言った。
ソレを聞いて、俺は当然驚いた。
俺もオカンに同じものを見ていたことを言うと、オカンも、
「 じゃあ、あれは幻覚じゃなかったの?」
と驚いた顔をしていた。
オカンも同じように、あの人が通っても何故か違和感なく、恐怖感もなく、
ただそれを見ていただけだったらしい。
不思議なことに2人とも、女の人だった、という事実は覚えていても服も髪型も覚えてない。
そして、毎回同じように隣の裏手に曲がっていく。
未だにその人が何なのかわからない。
2人とも頭おかしくなってた可能性もゼロじゃないけど、一体何だったんだろう、アレ。
そんな異常な光景をみて恐怖を感じないのも、何故なのかもまったくわからん。
もしかしたら、今もその人同じところを毎晩のように歩き続けてるんだろうか?
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