日々の恐怖 10月25日 足(2)
もう一度自分の置かれている状況を思い出す。
個室に、ひとり。
顔を上げてもそこには誰の姿も見えない。
それなのに、足がある。
体は金縛りのように動かなかった。
俺はその姿の見えない存在に言いようのない恐怖を感じていた。
足が触れ合ったまま動けないでいると、ふとその足の感触が消えた。
おそらくその足が消えてなくなったわけじゃない。
机の下で足が当たった時に誰しもが取る行動。
どけた。
ただ足をどけたのだ。
目の前の存在が多少人間的な行動をとった事で多少冷静さを取り戻した俺は、
とりあえずトイレに向かった。
さっきのは何だったんだ。
幽霊?
妖怪?
用を足しながら1人考えを巡らせる。
いや、あれには感じなかった、何か、意志のようなものを。
まるでそこにいるのが当たり前の様に、そこにいた。
考えがまとまらないまま個室に戻ると、そこには見慣れた友人の姿があった。
「 よう・・・!」
ぎこちなく声をかけながら正面に座る。
しばらく飲みながら何気ない会話を交わしていると、話の途中で不意に友人が、
「 あ、ごめん。」
と言った。
俺には彼がなぜそれを言ったのかわからなかった。
わからなかったからこそ、わかってしまった。
おそらく彼の足は、触れたのであろう。
誰のものかわからない、あの足を。
「 別にいいよ。」
とは、言えなかった。
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