一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『企業買収防衛戦略Ⅱ』

2006-04-25 | 乱読日記

貸金業の上限金利問題にかかわる「ローエコ」議論に慣れない頭を使っているうちに書く機会を失っていたのですが、昨年に続きまたもやタイムリーに発行された、武井一浩・中山龍太郎編著『企業買収防衛戦略Ⅱ』を(タイムリーと言うにはちょっと遅れて)読みました。

専門的な内容についてはコメントできるほどの知識・能力はないので、読者としての感想(というかヨタ話)をいくつか。

1.サブリミナル効果

章立ては以下のとおりです。

第1章 「買収防衛策の最新動向と実務対応の指針」(武井一浩)
第2章 日本における平時導入型買収防衛策の標準形──「条件決議型ワクチン・プラン」の設計書(武井一浩/中山龍太郎/高木弘明/野田昌毅/前田葉子/石田多恵子)
第3章 「買収防衛指針」および「企業価値報告書」の解説(武井一浩)
第4章 買収防衛策の意義に関する覚書(中山龍太郎)
第5章 米国における買収防衛策に関する法的議論の概観──第三者割当・複数議決権株式を中心に(中山龍太郎)
第6章 公開買付けにおける株主の平等取扱い──米国の動向を参考として(戸田 暁)
第7章 ファイナンスからみた企業買収(森田 果)
第8章 敵対的買収に対する防衛策についての覚書(田中 亘)

これに、巻末資料として「企業価値報告書」「買収防衛指針」や関係する訴訟(ニッポン放送・ニレコ・日本技術開発)の判決文などが載っています。

第1章から読み進んでいくと、「企業価値報告書」「買収防衛指針」に言及される部分が多く、第2章の前に巻末資料を改めて読んでみたくなります。
そして2章、3章は既出の論文をアップデートして収録しているのですが、その結果必然的に論点が繰り返し引用・整理されているので、読み流して行ってもサブリミナル効果のように頭に入ってきます。

これは書き下ろしにないメリットですね。

そうやって頭の整理をつけたあとで興味があれば書き下ろしの4章5章以下を楽しむ、というのがおすすめの読み方です。  


2.「条件決議型ワクチン・プラン」の呼称について 

筆者は西村ときわ法律事務所の弁護士を中心にしていますが、西村ときわの発案である「条件決議型ワクチン・プラン」という呼称を広げよう、という意気込みを強く感じます。

 これは筆者らの試案で俗に「ワクチン・プラン(常備薬)」と呼んでいるものである。(48頁)

 「ワクチン・プラン」との呼称は、筆者らの属する西村ときわ法律事務所で考案した名称である。(同 注3))

こういう著書は事務所のPRという部分もあるのでしょうから異を唱えるつもりはないのですが、ちょいと引っかかったのが「ワクチン」と「常備薬」というのはちょっと違うのでは、という点。
確かにワクチンは無害化したウイルスを体内に入れて抵抗力をつけるので生理学的には常備薬といってもいいのかもしれませんが、普通は常備薬といえば「富山の置き薬」のようなものですよね。

そして「富山の置き薬」といえばつぎの遊び唄が有名です。

 ♪♪越中富山の反魂丹、鼻くそ丸めて万金(まんきん)丹、それを飲むやっつァあんぽん丹♪♪  

すなわち、上記「ワクチン・プラン(常備薬)」という表記には、本当は

買収防衛策を作るのもいいが、素人が勝手に作ったり、いいかげんな法律事務所に相談して「鼻くそ」のような防衛策を作るとロクなことにならないぞ(=西村ときわに相談しなさい)

と言外に言いたかったのではないか、というのが私の深読みです^^  


3.寸止め

本のボリュームから仕方ないのかもしれませんが、けっこう面白そうな論点を頭出しだけして、「その点は措くとして」とか「・・・の文脈でも重要な要素となる」で言及をとめている部分がけっこうあります。
それ以上知りたければ・・・(以下省略)ということなのでしょうが、この寸止め感がたまりません。
(同じ西村ときわ法律事務所の『M&A法大全』などもそういうところがけっこうありますね^^)  


4.謎

購入したのが初版なので、誤植はつきものなのですが、悩んだのが以下の部分  

なお、先ほどの「条件決議型」は、(a)(b)(c)三類型(注)すべてに対応可能であり、各社の状況によって柔軟に設計を行うことができる。米国型のガバナンス体制を志向する企業が買収防衛策を導入できることはもちろんのこと、社外取締役を置かない方が企業価値の最大化に資すると考える上場企業であっても、買収に対する適正な時間と情報を確保し企業価値を高めない支配株式の移動を未然に防止するため、適正な詐欺を工夫することで、取締役会決議によって導入することが可能である。(28頁)
 (注:これも前では「①②③」と書かれているんので一瞬迷います)  

他の誤植は単純な誤植か変換ミスが原因と思われるのですが、これは正しくは何と書きたかったんだろう、と悩んでしまいました。

私の回答案は「策」なのですが、"sagi"と"saku"ではキーボード上でgとkは離れているので、タイプミスというのも考えにくいんですよね。

どなたかほかの回答があったら教えてください。



冗談はさておき、真面目な話、非常にわかりやすく整理されている本だと思います。特にそもそも論から役員などに説明する際のネタ本として重宝すると思います。






コメント (2)
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