日本学士院は、優れた業績を上げた研究者に贈る日本学士院賞に、液体に溶けた化学物質を結晶化させずにエックス線で構造解析をする技術を開発し、創薬研究に大きく貢献した東京大の藤田誠教授ら9人を選んだと発表した(3月12日)。藤田氏には恩賜賞も贈る。
受賞者と授賞理由(敬称略)
日本学士院賞・恩賜賞
藤田誠:61歳。東京大教授、有機化学・錯体化学。結晶スポンジ法という、化学物質の結晶化が不要なエックス線構造解析手法を開発。
日本学士院賞
山崎志郎:61歳。大妻女子大教授、日本経済史。戦時統制資料を分析し、戦時日本経済の全体像を解明。
平間正博:71歳。東北大名誉教授、天然物合成化学。魚介類を食べることで起きる食中毒シガテラについて、毒素の合成を達成、中毒治療への道を開く。
常田佐久:64歳。国立天文台長、天文学。太陽観測衛星「ようこう」「ひので」の開発や運用を主導。
永嶺謙忠:77歳。高エネルギー加速器研究機構名誉教授、原子核素粒子物理学・物質生命地球科学。巨大な物体の内部構造を探る手法を開発するなど、ミュー粒子による学際的科学を発展させた。
藤野陽三:69歳。横浜国立大上席特別教授、土木工学。橋などの長大な構造物が揺れる原因を解明、振動対策につなげた。
磯貝明:64歳。東京大教授、生物材料科学。植物に由来する新素材「セルロースナノファイバー」の製造方法を開発。
長沢丘司:57歳。大阪大教授、免疫学・血液学・幹細胞生物学。骨髄で造血幹細胞が維持される仕組みを明らかにし、血液細胞や骨が作られる過程の解明に貢献。
高柳広:53歳。東京大教授、免疫学。骨と免疫の相互作用に着目して新しい学問を開拓、骨粗しょう症やがんの骨転移などの治療法開発に貢献。
藤田誠氏の授賞理由
結晶スポンジ法(Crystalline Sponge method: 以下、CS法)と呼ぶ「結晶化を必要としないX線構造解析手法」を創出した。
CS法は、結晶スポンジ、すなわち細孔性の金属錯体単結晶に、対象試料を溶液状態から吸蔵させ、錯体の細孔を鋳型として吸蔵試料化合物の周期配列を作り出し、そのX線結晶構造を観察する技術。X線構造解析において、これまで多大な時間と労力を必要としてきた「試料の結晶化」の工程を省くことができる画期的な技術である。この手法は汎用性が高く、分子が関与する様々な研究の現場で活用されている。とりわけ、測定に必要な試料の量をマイクログラムの大きさに下げることができるため、微少量成分の構造決定を行う天然物化学や、微量活性成分や不純物の構造決定を必要とする製薬企業の創薬研究において大きな威力を発揮している。この技術の誕生の背景には、藤田氏が過去四半世紀かけて積み上げた「配位結合駆動の自己組織化物質創製」の基礎的な研究基盤がある。
◆用語
X線構造解析
物質の結晶にX線(極めて波長に短い光の一種)を通過させると、X線の散乱(回折と呼ばれる)が起こり、散乱像(回折像)が得られる。この散乱像をコンピュータで解析し、結晶を構成していた分子の3次元構造を精密に求める構造解析技術。分子構造を決定する最も有力な方法。
結晶スポンジ
金属イオンと有機分子からつくられる分子サイズの細孔を有する物質。有機化合物を溶液状態からスポンジのように吸い上げる性質を有する。
単結晶
原子や分子の規則正しく周期的な配列で構成された固体を結晶と呼ぶが、1個の結晶内のどの部分においても原子配列の向きがまったく同一であるものを単結晶という。
吸蔵
固体が気体や液体を吸収して内部に保有する現象。
X線結晶構造
X線構造解析により得られる分子や物質の3次元構造。
配位結合
ここでは狭義で、遷移金属元素と有機元素(窒素原子や酸素原子)の間でつくられる化学結合をさす。
自己組織化
物質が、自発的に構造的な秩序を形成する仕組み。
受賞者と授賞理由(敬称略)
日本学士院賞・恩賜賞
藤田誠:61歳。東京大教授、有機化学・錯体化学。結晶スポンジ法という、化学物質の結晶化が不要なエックス線構造解析手法を開発。
日本学士院賞
山崎志郎:61歳。大妻女子大教授、日本経済史。戦時統制資料を分析し、戦時日本経済の全体像を解明。
平間正博:71歳。東北大名誉教授、天然物合成化学。魚介類を食べることで起きる食中毒シガテラについて、毒素の合成を達成、中毒治療への道を開く。
常田佐久:64歳。国立天文台長、天文学。太陽観測衛星「ようこう」「ひので」の開発や運用を主導。
永嶺謙忠:77歳。高エネルギー加速器研究機構名誉教授、原子核素粒子物理学・物質生命地球科学。巨大な物体の内部構造を探る手法を開発するなど、ミュー粒子による学際的科学を発展させた。
藤野陽三:69歳。横浜国立大上席特別教授、土木工学。橋などの長大な構造物が揺れる原因を解明、振動対策につなげた。
磯貝明:64歳。東京大教授、生物材料科学。植物に由来する新素材「セルロースナノファイバー」の製造方法を開発。
長沢丘司:57歳。大阪大教授、免疫学・血液学・幹細胞生物学。骨髄で造血幹細胞が維持される仕組みを明らかにし、血液細胞や骨が作られる過程の解明に貢献。
高柳広:53歳。東京大教授、免疫学。骨と免疫の相互作用に着目して新しい学問を開拓、骨粗しょう症やがんの骨転移などの治療法開発に貢献。
藤田誠氏の授賞理由
結晶スポンジ法(Crystalline Sponge method: 以下、CS法)と呼ぶ「結晶化を必要としないX線構造解析手法」を創出した。
CS法は、結晶スポンジ、すなわち細孔性の金属錯体単結晶に、対象試料を溶液状態から吸蔵させ、錯体の細孔を鋳型として吸蔵試料化合物の周期配列を作り出し、そのX線結晶構造を観察する技術。X線構造解析において、これまで多大な時間と労力を必要としてきた「試料の結晶化」の工程を省くことができる画期的な技術である。この手法は汎用性が高く、分子が関与する様々な研究の現場で活用されている。とりわけ、測定に必要な試料の量をマイクログラムの大きさに下げることができるため、微少量成分の構造決定を行う天然物化学や、微量活性成分や不純物の構造決定を必要とする製薬企業の創薬研究において大きな威力を発揮している。この技術の誕生の背景には、藤田氏が過去四半世紀かけて積み上げた「配位結合駆動の自己組織化物質創製」の基礎的な研究基盤がある。
◆用語
X線構造解析
物質の結晶にX線(極めて波長に短い光の一種)を通過させると、X線の散乱(回折と呼ばれる)が起こり、散乱像(回折像)が得られる。この散乱像をコンピュータで解析し、結晶を構成していた分子の3次元構造を精密に求める構造解析技術。分子構造を決定する最も有力な方法。
結晶スポンジ
金属イオンと有機分子からつくられる分子サイズの細孔を有する物質。有機化合物を溶液状態からスポンジのように吸い上げる性質を有する。
単結晶
原子や分子の規則正しく周期的な配列で構成された固体を結晶と呼ぶが、1個の結晶内のどの部分においても原子配列の向きがまったく同一であるものを単結晶という。
吸蔵
固体が気体や液体を吸収して内部に保有する現象。
X線結晶構造
X線構造解析により得られる分子や物質の3次元構造。
配位結合
ここでは狭義で、遷移金属元素と有機元素(窒素原子や酸素原子)の間でつくられる化学結合をさす。
自己組織化
物質が、自発的に構造的な秩序を形成する仕組み。