英国の不動産価格は2007年にピークを付けた後下落に転じたが、ロンドン地区だけは上昇を続けていて、ロンドン例外の地域と際立った違いを見せている。その理由としては、ロンドンの不動産を購入しているのなかで外国人の占める割合が大きく、英国の景気とは関係がなく別の動きを示すため。
すなわち、ロシア、中東、他の欧州諸国からロンドンの物件への強い需要があり、特に高額物件では、たとえば200万ポンド以上では50%が、さらに1000万ポンドの超高額物件では70%を外国人が占めている。ロシア、中東からは、自国の政治体制に対する不信から、政治的に安定している英国の物件が魅力的なこと(いざとなれば亡命しなければいけない可能性もあり、そのときのための住居の備えとして)があり、欧州からは、税務上の理由に加えユーロの崩壊を見越してあらかじめ不動産の投資先を大陸から英国に移そうとすることや、最近のポンド安で不動産にも値ごろ感が出ているため。
さらに、需要と供給の観点からは、ロンドン市内での新規住宅地開発がますます困難になっており、従来の小規模住宅を改装して大型の住居にすることにより供給の減少があり、また、これまでであればロンドンから他の地域・国に移り住む際には住んでいた住宅を売却することが一般的だったが最近では今後の値上がりを見越して売却せずにそのまま保有し続ける人が多くなっていることも供給の減少につながっている。当初はロンドン中心部で顕著だったこの現象は、今や、ロンドン近郊の優良住宅地にも及んでいる。一方、ロンドン以外の地域では依然不動産価格は下落しており、イギリスの不動産市況とロンドンのそれとはもはや全く連動していない。
現地の不動産業者によれば、当面この傾向は続くという事だ。ただ、ロシアや中東の富豪たちは逃げ足の速い投資家である。日本人がこれから欧州への不動産投資を考えるのならロンドンを外すことはできないし、現状を前提とするのであればロンドンへの投資は比較的安全だろう。しかし、ロシア、中東が逃げ出し、ユーロの安定してくれば欧州の投資家も大陸に回帰することになって、ロンドンの不動産価格が暴落する可能性も排除できず、その時には、高額物件を対象とする投資家は大きな火傷を負うことになる。もっとも、ロンドン地域でも韓国人や中国人が密集して住んでいる地域もあり、それらは定住が目的なので逃げ出すことはない。もし、腰を据えてロンドンへの投資を考えるのであれば、移民という実需が存在しているこういった地域が少しは安全かもしれない。