衝動買いに近い形で購入したものの、ついつい読まずに本棚の片隅に置き忘れられたような本がある。週末、そんな本の一つを読んで久しぶりに良書に出会ったような気がした。1998年8月刊行の岩波新書「フランス恋愛小説論」である。その当時、どうしてこの新書を買う気になったのか今では思い出せないが、新宿の紀伊国屋書店で購入したもので、たぶん、暑い夏の日の午後、暇つぶしに書店めぐりをしたのかもしれない。フランス人作家5人の手になる恋愛小説を、主人公および関係する登場人物からその時代背景、生活、感情までを見事に分析した希少な小説論。また、著者の工藤庸子氏の博覧強記ぶりにも感心させられる。そのせいか、この新書が世に出てからすでに15年も経つというのに陳腐さを全く感じさせない新鮮な著作だ。
この新書がどれほど売れたのかは知らないが(いまでもアマゾンで販売している)、大学で教鞭をとっていた翻訳者のフランス恋愛小説に関わる素晴らしい業績だと思う。