2003年10月23日は英国航空(BA)の最後のコンコルド便がヒースロー空港に着陸した日でそれをもってコンコルドは民間航空機としての幕を下ろした。BAが今も保有する8機のコンコルドは1機がBAの管理下にあるほかは、7機が英国エアバス(ブリストル)、マンチェスター空港、エジンバラ近郊の飛行博物館、ヒースロー空港、シアトルの飛行博物館、ニューヨーク・ハドソン川のイントラピッド博物館およびバルバドスで展示されている。
民間旅客機として最初で(多分)最後となった超音速旅客機については、その退役を惜しみ、再度の飛行を希望する声は今でも依然多い。しかし、コンコルドが”政治的”判断によって退役させられた以上、これを保有するBAは「安全性からも、また技術面からも再度運行することは論外」と言うにべもない対応であり、再びあの怪鳥を見ることはなさそうだ。もしふたたび超音速の民間航空機が実現するとすれば、ヴァージン航空のリチャード・ブランソン卿が来年にも開始しようとしているVirgin Galactic計画だ。また、彼は自分の存命中にロンドンーシドニー間を、環境への悪影響を最小限にしつつ2時間半で結ぶことを計画しているというからエアバスやボーイングに期待するよりもこちらの方がまだ実現可能性は高い。
カネに糸目をつけず、かつ、新しいもの好きの多くのファンに支えられていたコンコルドは商業的には多大な利益をBAおよびAFにもたらしたし、この飛行機に採用された革新的な技術の幾つもがいまでも最先端としての輝きを失っていない。一時は、NASAの宇宙飛行士よりもコンコルドのパイロットの方が少ないほど航空人にとっては憧れだったというほどだ。
いつも犬猿の仲の英仏による希な共同プロジェクト・コンコルドが商業飛行していたのは1976年からの27年間に過ぎなかった。私事になるがたまたま80-90年代にロンドンに駐在していた時の自宅の上空が、風向きにもよるが、ヒースロー空港の航路にあたっており、頻繁に航空機が通過して行ったが、コンコルドはその聞き間違いのないほど他機とは異なったエンジン音を響かせてあっという間に飛び去っていった。また、ある時はやはりヒースロー空港で、コンコルドの次の離陸便に乗り合わせていた時、コンコルドの4基のエンジンがアフターバーナーのオレンジ色の炎を吹き出し、空気をつんざくような爆音(機内でもすさまじい爆音が聞こえた)と、その推進力により搭乗していた飛行機がぶるぶると振動したことも記憶に残っている。郷愁でしかないが、あの姿をもう一度見てみたい、と思う。