可愛らしいパッケージ。ポルトガルの缶詰である
生存中、ヘイマンの旦那は、コーヒー1杯、煙草1本、酒1杯、女ひとりとして触れたこともなかった。そんなものは愚かしいと考えていた。
冬には2、3の鱒がヘイマン・クリークにのぼってきたが、夏が来るころには、クリークはほとんど乾上がって、魚などはいなかった。
ヘイマンの旦那は鱒を1、2匹釣り上げると、それを挽き割り小麦とキャベツと一緒に、生で食べた。かれはすっかり年老いて、ある日のこと、全然働く気がしなくなってしまった。
リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』訳/藤本和子
不条理なユーモアのちりばめられた小説(あるいは散文、詩)、『アメリカの鱒釣り』の一文である。
ここには缶詰が登場しないのだけれど、鱒の缶詰を紹介するにあたって、どうしても引用したかった。
何故なら、筆者は、“鱒”と聞くと独特の感情が湧き上がるのだ。
鱒と聞いたとたん、
「このままではいられない」
と立ち上がってしまう。
鱒釣りの様子が瞬時に思い浮かび、そのためのキャンプの風景も思い浮んできて、いてもたってもいられなくなって、泳ぐような手つきで部屋を歩いたりする。
他の魚だと、こうはならない。
鱒というのはものすごく魅力のある魚なのだ。
ではでは、ぱきりっと開缶。
左は「トラウトマリネの缶詰」、右は「燻製トラウトの缶詰」であります。
開缶した途端、たまねぎ入りのマリネ液の匂いが立ちのぼり、食欲が強く刺激される。
トラウトとは鱒のことだが、ここで使われている鱒は恐らく、ニジマスが海に下って大きく成長したものだろうと、川口貿易の方がおっしゃっていた。
すなわちこの缶詰は、シュールストレミング缶の正規取り扱い店として有名な川口貿易が独自に輸入している商品なのだ。
かくのごとし。
鱒の美しい皮がきちっと残っている。
ハヤる気持ちを抑えつつ、まずは燻製トラウトのほうをひと口...。
むっ、これは素晴らしく美味しいです。
鱒の身独特のキメ細かい肉質が、口中でほどけていくようだ。そこに燻蒸香がほんのりと加わって、飲み込んだあとは何も残らない。
もう一つのトラウトマリネは、ローリエとたまねぎの香りがよく利き、燻製トラウトよりも味が濃く感じる。
どちらもオイル漬けのわりにはあっさりとしていて、塩っ気がとても少なく、品の良い味付けなのが印象的である。
ただ食べるたけではもったいない気がし、これを肴にフォアローゼスのブラック(バーボン)を一杯、生でやっつけてみた。
たちまち歓喜がやってきて、思わず一人、ニヤリと笑う。鱒は影だけを残して、遙か彼方に泳ぎ去っていくのであった。
内容総量:どちらも90g(固形量65g)
原材料名:燻製トラウトはます、オリーブ油、香料(天然由来)、食塩
トラウトマリネはます、ひまわり油、トマト、酢、たまねぎ、唐辛子、白胡椒、月桂樹、食塩
原産国:ポルトガル(輸入販売:川口貿易)