このところ本を読む速度が大変遅くなってきているのを感じる。原因の
一つが目の具合が面白くないことでもある。それと読んで面白く楽しい「小説」をほとんど読まなく、歴史や技術史あるいは環境問題などするすると流し読みのできるものではないので当然速度は遅くなる。 その中で整理中に目についた「遠い日の戦争」吉村昭、を読んだ。短いものなので店先で一時間ほどで一気に読んでしまった。かなり前に発刊されたもので、福岡の終戦時の事件を題材にしたものだからと思って読んだのだけれど、良い作品と感じ入ったことでした。以前、それこそ30年くらい前のことだけれど、ラジオの朗読で「ポーツマスの旗」をたまたま聞いて「いい文章だなあ」と感じ即刻手に入れて読んだ。素晴らしい作品だと思って数人に勧めた覚えがある。彼の文章は穏やかで盥のない静かなものだけれど、スキがなく先へ先へと読み進ませるものがあると思う。小生の教養・表現力では言い尽くさないがこれが「筆力」という物かと思う。前にある現役の作家の時代小説を読み通せなかったことを書いた。題材は規模の大きな面白くなるはずのものだけれど、人物の描き方、風景その他の表現、何ともまどろっかしく諦めてしまった。吉村昭の作品は特に作為のあるとは思えないけれどすっきりとして素晴らしいと思う。凪の大海原でうねりで揺蕩っている、われながら下手な表現で恥ずかしいが、そのような印象です。 方々におかれても彼の作品を読まれることをお勧めします。司馬遼太郎・吉川英治・松本清張などとどこが違うか、頭の中では思うことはあるけれど、「文章」にしきれないのが実にもどかしく浅学菲才を実感。