自分に刺激を与え、成長を導き、さらに仕事の可能性を広げてくれる人とのつながりこそ、意味のある「人脈」と言える。そんな人と出会うためには、何をすればいいのだろうか。多くの人脈を持つ山本真司氏に、40代から人脈作りの秘訣をうかがった。
■「ある程度成功した人」のほうが危ない!?
社内でのステップアップに明け暮れる間に、社外の人脈作りをしていなかった──そんな40代ビジネスマンは多いでしょう。中でも注意すべきは、「社内引きこもり」。社外の人々と接することに抵抗を覚える状態です。
この状態にある人の多くは、社内である程度の成功を経験しています。そしてその過程で、会社のカラーを良くも悪くも身につけています。それは時に、組織の風土やローカルルールに基づく狭い視野・偏った判断基準を形成することがあります。
そうなると、外界との間にはギャップが生まれます。外に出たときに他業界についての無知が露呈したり、社内ルールそのままの行動をして恥をかいたりすることもあるでしょう。そのストレスを避けようと、ますます引きこもるのです。
しかし私はあえて、そんな方々にこそ、外に出ることを勧めます。
現在、日本企業は業界を問わず、イノベーティブであることが求められています。そこで働く人材にも、既成概念にとらわれない新しい発想が必須です。
その発想力は、異質なものとの接触なしには生まれません。引きこもりのままでは個人の成長が止まるだけでなく、そうした人々で構成される会社も、いずれ停滞するでしょう。
ですから、ここは勇気と謙虚さが大事。恥をかくことを恐れずに外の世界に打って出て、未知のことを「教わる」姿勢を持ちましょう。
「40代から人脈を作ろうとしても遅すぎるのでは?」という不安もあるでしょう。しかしそこは心配無用。私自身も、意識的に人脈を作り始めたのは40代以降です。いつから始めようと、その人次第で人脈を育てることは可能です。
さて「その人次第」と言いましたが、ここが重要なポイント。人脈を構築できる人の条件は、「人から『会おう』と思ってもらえる人」であることです。
誰しも、魅力に欠ける人とは会いたいと思いません。多忙な人物ならなおさらです。人脈を作るなら、会ってもらう価値=「実力」が不可欠なのです。
実力を構成する要素はさまざまですが、突き詰めると「ビジョン」「ストラテジー」「影響力」の3つに集約できます。高い志とそれをイメージ化する構想力、その実現を図る戦略構築力、そして他者の思考や行動に刺激を与える力です。
それらを身につけるには、とにもかくにも「勉強」。とくに、これまでしてこなかった人には猛勉強が必要です。自分の仕事やその分野に関する知識を磨き、さまざまなことに興味を持ち、それに対する独自の見解を持つこと。こうした専門性と確かな価値観が、実力と魅力の源になります。
■人脈を広げる「魔法の言葉」とは?
こう考えるのは、私自身の経験に基づいてのことです。
先に述べたように、私が人脈構築を始めた時期は決して早くはありません。銀行員だった20代は自社内にのみ関心を払い、留学時代もひたすら専門の勉強に明け暮れていました。
意識が変化したのは、コンサルタントになってからです。さまざまな業界のクライアントと会い、そのトップと話す中で外の世界と触れ合うことの意義を知り、知らないことを謙虚に教えてもらう姿勢を持てました。
そして40代、経営に携わるようになってから、本格的に人脈作りに乗り出しました。
その方法はいたって単純です。会う人ごとに、「○○に詳しい人をご存じないですか」「今、△△に興味がありまして……」「□□の権威にお話を聞きたいと思っています」などと言って回るのです。するとほどなく、それをかなえられる人物を紹介してもらえます。その繰り返しの中で私の人脈は築かれてきました。
さて、ここで注意していただきたいのは、声をかける際に「○○に詳しい人と会う」「△△について学ぶ」という目的を告げていたことです。大事なのは、その人に会うことによって何を得たいか、という意識です。つまり人脈作りを「手段」と捉える視点です。
しばしば人脈作り自体を目的化してしまう人がいますが、ただ知り合うだけでは何の意味もありません。仕事に生かしてこそ、意味があるのです。
そのためにも、「今、自分はどんな仕事をしたいのか、それには何が必要か」を、常に明確化しておきましょう。
そしてもう一つ重要なのは、こちらからも相手の益になるものを提供する姿勢を持つこと。
人脈はギブ&テイクで成り立つものです。こちらのメリットを期待するだけでは虫がよすぎます。
対面中は、会話の端々から、相手が悩みや困りごとを抱えていないか、興味を持っていることはないかを考え、役立てるチャンスを探しましょう。勉強して得た知識や情報やアイデアが、ここで役立つはずです。
紹介してくれた人に対しても同じです。仕事で役立ったり、自分も誰かを紹介したりと、恩返しのチャンスはいくらでもあります。
紹介者の中には広い人脈網を持つ“ネットワークハブと呼ばれる人もいます。そうした人から「役立つ人物」と思われることは非常な強みです。そうすることで、相手も自分のネットワークを惜しみなく提供しようという気持ちになり、「○○さんを紹介してもらえませんか」と言ったときにも、すぐに応じてもらえるでしょう。
■「モノ」ではなく「魅力」でつながろう
このギブ&テイクでやり取りされるのは「モノ」ではありません。いわゆる「つけ届け」の類は、私の考える人脈術には登場しません。
逆の立場でも同様です。私に会いたいと思ってくださる方に期待するのは立派なメロンではなく(笑)、最新の情報、深い知識、瑞々しい感性、ユニークな視点といったものです。
人脈を築いたり、続けるために「パーティーに数多く出席する」「手紙や年賀状で小まめに関係をメンテナンスする」といったことも、私は必要ないと思います。パーティーは、なんとなく人脈を求める人々がなんとなく集まる、目的意識に欠けた場であることが多いですし、メンテナンスなどしなくても、「この人は魅力的」という信頼感があれば久々の再会でも話が通じ合うからです。
つまるところ、人脈とは実力と魅力に基づくつながりなのです。裏を返せば、魅力がなくなれば関係も終わるという怖さもあります。ですから、会うときは毎回真剣勝負です。
そうした緊張感を忘れずに、毎回、確実に成果につながる対話を交わす。それが、良い仕事へと結びつく、真の人脈術なのです。
山本真司(やまもと・しんじ)経営コンサルタント、〔株〕山本真司事務所代表取締役
1958年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)勤務。シカゴ大学経営大学院(ブースビジネススクール)修士。名誉MBA(MBAwithhonors)取得、ベータ・ガンマ・シグマ(全米成績優秀者協会)会員。1990年にボストン・コンサルティング・グループ東京事務所に転じる。以降、A.T.カーニーマネージング・ディレクター極東アジア共同代表、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所代表パートナーなどを経て2009年に独立。現在、株式会社山本真司事務所、パッション・アンド・エナジー・パートナーズ株式会社代表取締役、立命館大学経営大学院客員教授、慶應義塾大学健康マネジメント大学院非常勤講師などを務める。
著書に、『会社を変える戦略』(講談社)、『儲かる銀行をつくる』(東洋経済新報社)、『40歳からの仕事術』(新潮社)、『35歳からの「脱・頑張り」仕事術』(PHP研究所)、共著に『ビジネスで大事なことはマンチェスター・ユナイテッドが教えてくれる』(広瀬一郎氏との共著、近代セールス社)など多数。
(取材・構成:林 加愛)(『The21online』2016年1月号より)
■「ある程度成功した人」のほうが危ない!?
社内でのステップアップに明け暮れる間に、社外の人脈作りをしていなかった──そんな40代ビジネスマンは多いでしょう。中でも注意すべきは、「社内引きこもり」。社外の人々と接することに抵抗を覚える状態です。
この状態にある人の多くは、社内である程度の成功を経験しています。そしてその過程で、会社のカラーを良くも悪くも身につけています。それは時に、組織の風土やローカルルールに基づく狭い視野・偏った判断基準を形成することがあります。
そうなると、外界との間にはギャップが生まれます。外に出たときに他業界についての無知が露呈したり、社内ルールそのままの行動をして恥をかいたりすることもあるでしょう。そのストレスを避けようと、ますます引きこもるのです。
しかし私はあえて、そんな方々にこそ、外に出ることを勧めます。
現在、日本企業は業界を問わず、イノベーティブであることが求められています。そこで働く人材にも、既成概念にとらわれない新しい発想が必須です。
その発想力は、異質なものとの接触なしには生まれません。引きこもりのままでは個人の成長が止まるだけでなく、そうした人々で構成される会社も、いずれ停滞するでしょう。
ですから、ここは勇気と謙虚さが大事。恥をかくことを恐れずに外の世界に打って出て、未知のことを「教わる」姿勢を持ちましょう。
「40代から人脈を作ろうとしても遅すぎるのでは?」という不安もあるでしょう。しかしそこは心配無用。私自身も、意識的に人脈を作り始めたのは40代以降です。いつから始めようと、その人次第で人脈を育てることは可能です。
さて「その人次第」と言いましたが、ここが重要なポイント。人脈を構築できる人の条件は、「人から『会おう』と思ってもらえる人」であることです。
誰しも、魅力に欠ける人とは会いたいと思いません。多忙な人物ならなおさらです。人脈を作るなら、会ってもらう価値=「実力」が不可欠なのです。
実力を構成する要素はさまざまですが、突き詰めると「ビジョン」「ストラテジー」「影響力」の3つに集約できます。高い志とそれをイメージ化する構想力、その実現を図る戦略構築力、そして他者の思考や行動に刺激を与える力です。
それらを身につけるには、とにもかくにも「勉強」。とくに、これまでしてこなかった人には猛勉強が必要です。自分の仕事やその分野に関する知識を磨き、さまざまなことに興味を持ち、それに対する独自の見解を持つこと。こうした専門性と確かな価値観が、実力と魅力の源になります。
■人脈を広げる「魔法の言葉」とは?
こう考えるのは、私自身の経験に基づいてのことです。
先に述べたように、私が人脈構築を始めた時期は決して早くはありません。銀行員だった20代は自社内にのみ関心を払い、留学時代もひたすら専門の勉強に明け暮れていました。
意識が変化したのは、コンサルタントになってからです。さまざまな業界のクライアントと会い、そのトップと話す中で外の世界と触れ合うことの意義を知り、知らないことを謙虚に教えてもらう姿勢を持てました。
そして40代、経営に携わるようになってから、本格的に人脈作りに乗り出しました。
その方法はいたって単純です。会う人ごとに、「○○に詳しい人をご存じないですか」「今、△△に興味がありまして……」「□□の権威にお話を聞きたいと思っています」などと言って回るのです。するとほどなく、それをかなえられる人物を紹介してもらえます。その繰り返しの中で私の人脈は築かれてきました。
さて、ここで注意していただきたいのは、声をかける際に「○○に詳しい人と会う」「△△について学ぶ」という目的を告げていたことです。大事なのは、その人に会うことによって何を得たいか、という意識です。つまり人脈作りを「手段」と捉える視点です。
しばしば人脈作り自体を目的化してしまう人がいますが、ただ知り合うだけでは何の意味もありません。仕事に生かしてこそ、意味があるのです。
そのためにも、「今、自分はどんな仕事をしたいのか、それには何が必要か」を、常に明確化しておきましょう。
そしてもう一つ重要なのは、こちらからも相手の益になるものを提供する姿勢を持つこと。
人脈はギブ&テイクで成り立つものです。こちらのメリットを期待するだけでは虫がよすぎます。
対面中は、会話の端々から、相手が悩みや困りごとを抱えていないか、興味を持っていることはないかを考え、役立てるチャンスを探しましょう。勉強して得た知識や情報やアイデアが、ここで役立つはずです。
紹介してくれた人に対しても同じです。仕事で役立ったり、自分も誰かを紹介したりと、恩返しのチャンスはいくらでもあります。
紹介者の中には広い人脈網を持つ“ネットワークハブと呼ばれる人もいます。そうした人から「役立つ人物」と思われることは非常な強みです。そうすることで、相手も自分のネットワークを惜しみなく提供しようという気持ちになり、「○○さんを紹介してもらえませんか」と言ったときにも、すぐに応じてもらえるでしょう。
■「モノ」ではなく「魅力」でつながろう
このギブ&テイクでやり取りされるのは「モノ」ではありません。いわゆる「つけ届け」の類は、私の考える人脈術には登場しません。
逆の立場でも同様です。私に会いたいと思ってくださる方に期待するのは立派なメロンではなく(笑)、最新の情報、深い知識、瑞々しい感性、ユニークな視点といったものです。
人脈を築いたり、続けるために「パーティーに数多く出席する」「手紙や年賀状で小まめに関係をメンテナンスする」といったことも、私は必要ないと思います。パーティーは、なんとなく人脈を求める人々がなんとなく集まる、目的意識に欠けた場であることが多いですし、メンテナンスなどしなくても、「この人は魅力的」という信頼感があれば久々の再会でも話が通じ合うからです。
つまるところ、人脈とは実力と魅力に基づくつながりなのです。裏を返せば、魅力がなくなれば関係も終わるという怖さもあります。ですから、会うときは毎回真剣勝負です。
そうした緊張感を忘れずに、毎回、確実に成果につながる対話を交わす。それが、良い仕事へと結びつく、真の人脈術なのです。
山本真司(やまもと・しんじ)経営コンサルタント、〔株〕山本真司事務所代表取締役
1958年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)勤務。シカゴ大学経営大学院(ブースビジネススクール)修士。名誉MBA(MBAwithhonors)取得、ベータ・ガンマ・シグマ(全米成績優秀者協会)会員。1990年にボストン・コンサルティング・グループ東京事務所に転じる。以降、A.T.カーニーマネージング・ディレクター極東アジア共同代表、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所代表パートナーなどを経て2009年に独立。現在、株式会社山本真司事務所、パッション・アンド・エナジー・パートナーズ株式会社代表取締役、立命館大学経営大学院客員教授、慶應義塾大学健康マネジメント大学院非常勤講師などを務める。
著書に、『会社を変える戦略』(講談社)、『儲かる銀行をつくる』(東洋経済新報社)、『40歳からの仕事術』(新潮社)、『35歳からの「脱・頑張り」仕事術』(PHP研究所)、共著に『ビジネスで大事なことはマンチェスター・ユナイテッドが教えてくれる』(広瀬一郎氏との共著、近代セールス社)など多数。
(取材・構成:林 加愛)(『The21online』2016年1月号より)
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